マイケル コーエン氏

先進的なITを活用した震災復興・地域活性化に向けた取り組み

マイケル コーエン氏
マイケル コーエン氏

日本初のコンピュータ理工学専門大学である公立大学法人 会津大学では、コンピュータやネットワークに関わるさまざまな先端教育を行っています。
その概要 とSINET4におけるノード新設の効果について、会津大学 情報センターセンター長 コンピュータ芸術学講座 スぺーシャルメディアグループ教授 マイケル コーエン氏と、コンピュータ・サイエンス部門 情報基礎論講座教授 林 隆史氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2012年7月9日)

まずは会津大学の特色について教えて頂けますか。

コーエン氏:1993年に開学した本学は、日本で最初のコンピュータ理工学を専門とする大学です。現在はコンピュータ・サイエンス部門、コンピュータ工学部門、情報システム学部門の3部門と2つの研究センターで構成されており、コンピュータやネットワークに関わる先端的な教育・研究活動を行っています。
また、グローバルに開かれた大学であることも大きな特長で、4割の教員が外国人で、この比率の高さは理工系大学では日本一です。

先生の講座名に「コンピュータ芸術学」とあるのがユニークですね。

コーエン氏:私の研究テーマは「Fixed Mobile Convergence」、つまり携帯電話とユビキタスコンピューティングの融合であり、Augmented Reality(AR:拡張現実)関連の研究なども手がけています。 ここでは仮想的な3次元空間を携帯電話やスマートフォンで制御したりしますが、この時の舞台となる3次元空間はCADソフトやCGソフトなどを使用して描画します。これはまさにアートの領域というわけです。

先生は情報センターのセンター長も兼務されていますが、会津大学の情報化に対する取り組みについても教えて下さい。

コーエン氏:本学はコンピュータ理工学専門の大学ですから、学生に対して先進的なIT環境を提供することが重要と考えています。 学内インフラの整備にも力を入れており、802.11n対応のWiFiサービスなども提供しています。学生はノートPCやタブレットを持参すれば、学内のどこでも情報にアクセスできます。
また、その一方で、セキュリティやITガバナンスについても重視しています。 先進性と安全・安心の両立を図ることが、情報センターの大事なミッションだと考えています。

演習室や実験室の環境も非常に充実していますね。

林 隆史氏
林 隆史氏

林氏:学内の基幹ネットワークでは10Gbpsの回線を使用しているほか、500台以上のワークステーションを端末として学内の各教室に配置しています。また、言語や各種のツール類など、研究・教育に役立つフリーソフトを約500本提供しています。 本学では国内でも最先端の環境を目指していますから、学生が常に最新のテクノロジーに触れられるよう様々な取り組みを行っています。
大学の情報基盤においては、安定稼働や可用性の確保も重要なポイントですから、新しい仕組みを導入する際には事前に十分な検証を行っています。 たとえば、技術文書や論文などの執筆用に約70台のシンクライアント端末を導入していますが、学内へのサービスを開始するまでにはかなり綿密にチェックしました。 先ほどのお話に出たWiFiサービスやフリーソフトなどについても同様ですね。フリーソフトについては、動作や全体としての整合性まで確認しながら、ソースから構築して検証済みのものを提供しています。
ちなみに、少々余談になりますが、会津大学では大学発ベンチャーの支援・育成にも力をいれており、設立されたベンチャーの数は、国内の公立大学法人の中でもトップクラスの規模を誇ります。

会津地方の大学ならではの取り組みもあるのでしょうか。

林氏:ご承知の通り、福島県は3.11の東日本大震災で大きな被害を受けました。現在では復興に向けた活動もいろいろと行われていますが、本学でも「会津大学 復興支援センター」構想を現在進めているところです。
120名近いIT関連の研究者が集まっている大学というものは、世界的にもあまり例がありません。その特長を最大限に活かし、ITの側面から福島の復興を支援していこうというのがこのプロジェクトの狙いです。 各教員がそれぞれの専門分野の立場から参画し、県民健康調査の支援やIT人材の育成・雇用創出、新産業の創出など、さまざまな事業に取り組んでいく予定です。

ネットワークを活用した研究も多いと伺いました。

林氏:たとえば私が関わっている「Live-E!」プロジェクトもその一つです。 これは地球に関する生きた環境情報をネットワークで共有し、研究・教育やビジネスへの応用を目指すプロジェクトです。 具体的には気温・湿度・気圧・風向・風力などのデータを取得する気象センサーを各参加機関に設置し、地球環境問題やセンサーネットワークに関わる研究、小・中学生や高校生の教育などに利用します。
また、その他にも、本学ではJAXAやJAMSTECのような外部機関との連携、地方自治体との共同研究など、様々な活動にネットワークを活用しています。

そのインフラとしてSINETが活用されているわけですね。

林氏:そういうことです。今述べた通り、最近では遠方の大学や研究機関との連携を行う場面も非常に多くなっています。 地理的・時間的なギャップを埋める上で、SINETのような高品位な学術ネットワークが存在することの意義は非常に大きい。
ちなみに福島県では再生可能エネルギーの研究に力を入れており、本学でもスマートグリッドのための情報基盤作りに取り組む予定です。こうした研究も、まずネットワークがないと話になりません。

SINET4では福島県にもノードが設置されましたが、その効果については如何でしょうか。

林氏:以前は東北大学経由での接続でしたから、福島県ノードができたおかげで本学からの接続ポイントが非常に近くなりました。このことは、回線コスト削減の面で大きなメリットがあります。 また、回線帯域も大幅に増強されましたので、学内の教育・研究活動にもたらす効果も大きいですね。
ネットワークが果たす役割は年々重くなっていますので、今回のノード設置のような取り組みは我々としても大歓迎です。

SINETに対する期待などはありますか。

林氏:最近では本学でもネットワークを経由した広域連携やクラウド活用が今後に向けた重要テーマの一つとなっていますが、こうした取り組みでもSINETが役立ってくれることと期待しています。
現在はまだ利用していませんが、将来的にはL2オンデマンドなどのサービスも活用して、他大学や研究機関との連携もさらに深めて行きたい。先端研究ではコミュニティの重要性も高いので、研究者と研究者をつなぐ活動などもSINET側で支援してもらえると嬉しいですね。

最後に今後に向けた抱負を伺えますか。

コーエン氏:冒頭にも申し上げた通り、本学には先進的なコンピュータ/ネットワーク環境と各分野のエキスパートの先生方が揃っています。しかも学費の面でも安心な公立大学ですので(笑)、最先端のテクノロジーやエンジニアリングを学びたい学生には、ぜひ本学を目指して欲しいと思っています。 その期待に応えられるよう、我々教職員も全力で頑張っていきたい。また、学内での教育・研究活動を通じて、東北や福島の復興にも貢献できればと考えています。

ありがとうございました。