Hands-on system for remote drill operation

触覚フィードバックを含む遠隔制御システム

三好 孝典氏
三好 孝典氏

国立大学法人 豊橋技術科学大学では、高専連携教育研究プロジェクトとして、高専-技科大間における遠隔制御の研究ネットワーク構築と試験運用・実験を実施しています。
2008年には、その一環として、SINET3のQoSサービスを用いた触覚フィードバックを含む遠隔制御システムを、函館高専と共同で構築しました。
その概要と成果について、豊橋技術科学大学 生産システム工学系 システム制御研究室准教授 三好 孝典氏と、同 研究基盤センター/生産システム工学系 計測システム研究室助教 今村 孝氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施: 2009年7月3日)

まずはお二方の研究分野について教えて頂けますか

三好氏: 本学のシステム制御研究室では、ロボティクスと制振制御を中心とした制御工学分野の研究に幅広く取り組んでいますが、私自身はその中でも、パワーアシストシステムと遠隔制御の2分野を専門に手がけています。
前者のパワーアシストは、大きく重たいものを小さな力で動かすためのシステムです。100kgもあるような重量物を、指一本で動せるようにするといった具合ですね。
また、後者の遠隔制御では、ヒトの動作と離れた場所にある機械の動きを協調させる研究を行っています。たとえば、ヒトがものを掴む動作をすると、離れた場所にあるロボットアームが同じように動きます。しかも、ただ動くだけではなく、ロボットアームがものを掴んだ感覚がちゃんと人間にフィードバックされるようになっています。
こうした複雑な制御を自然に行えるようにするのが、この研究の難しさであり、醍醐味でもあると言えるでしょう。

今村 孝氏
今村 孝氏

今村氏: 私は計測システム研究室でヒトの動きを計測する研究を手がけています。
たとえば、自動車を運転しているドライバーの疲労度を身体の動きから計測したり、身体のバランスの状態を行動計測して、その情報をリハビリテーションに活用するための基礎研究を行っています。これらのセンシングの立場からもネットワーク利用は有効ですので、このプロジェクトに参加しています。
それ以外にも、小学生向けに安価な素材で製作できる二足歩行のおもちゃを提案して、製作講習会なども実施しています。

今回の高専連携教育研究プロジェクトに取り組まれたのは、どのようないきさつからだったのでしょう。

今村氏: 本学は学生の約8割が高専の卒業生で構成されており、高専との研究・教育交流を非常に重要視しています。より高度な知識・技術を習得したいと考える高専生にはぜひ本学に来てもらいたいですし、高専との共同研究も積極的に推進したいと考えています。
そこで、この理念を具体化するために、2007年から本学全体で高専連携教育研究プロジェクトがスタートしました。我々もこの取り組みを通じて全国の高専に対して、遠隔制御実験基盤の構築、並びに遠隔制御体験実習の実施を呼びかけたところ、初年度には国内5高専が賛同して下さり、翌年には9高専へと拡大しました。

具体的にはどのような取り組みを行っているのですか。

今村氏: たとえば、本学の天井クレーンシステムを利用した「遠隔クレーン操作」では、遠隔地の高専から操作用パドルとパソコンのモニターを使って実際に荷物の搬送を行います。このときパドルには、荷物の揺れや重さなどの情報もフィードバックされるようになっています。
また、「遠隔触覚体験」では、本学と高専に一台ずつパドルを設置し、遠隔地にあるパドルが押した対象物の硬さを、手元のパドルへの操作反力から判別する体験を行っています。

それは面白そうですね。

三好氏: ただし、課題もありました。遠隔制御実験を体験した学生からの評判は非常に良かったのですが、ネットワークの状態によっては、映像や音声が途絶してしまうケースがあったのです。
せっかく、手元のパドルには触覚がフィードバックされているのに、モニターの画面が止まったままでは、視覚と触覚がアンバランスになってしまいます。これでは学生の興味にも大きく影響しますし、安全上も問題です。

今村氏: そこで、二つの点で改善に取り組みました。
まず一点目は、なるべくシンプルで効果的に使えるコンテンツの開発です。これを実現するために、「遠隔ドリル操作システム」を新たに開発しました。 手元のパドルを押すと遠隔地のドリルが動き、合板に穴を開けるようになっています。これなら、ドリルが前へ進む一自由度の操作だけで、モニターの映像を見る際の視覚、切削開始時や合板を貫通する際に感じる触覚、ドリルの切削音を聴く聴覚と、3つの感覚に訴えることができます。
また、二点目は、今お話のあったネットワーク環境の改善です。ちょうどいいタイミングでSINET3のQoSサービスのモニター公募がありましたので、本学の情報メディア基盤センターにも相談して、早速応募することにしました。

ネットワーク構築上の課題になった点などはありましたか。

三好氏: 一番大きな課題になったのは、やはり足回りの回線の品質ですね。SINET3のバックボーンでは十分な品質が確保できるのですが、高専とSINETとをつなぐ部分で輻輳が起きてしまうのです。
今回の実験でも、接続先の函館高専の回線帯域を3Mbpsから5Mbpsへ増速して頂いたり、ルータの1ポートを実験ネットワーク用に占有利用するなどの対応を取って頂きました。

実際にSINET3のQoSサービスを導入した効果は如何でしたか

今村氏: 非常に大きな効果がありました。たとえば以前は、音声の途切れが激しいため、連絡に電話回線を併用するケースもありました。しかしQoSサービス導入後は、ネットワークだけで相手先とスムーズに会話できるようになりました。
また映像についても、以前はコマ送りのカクカクした映像でしたが、QoS導入後はフレームレートが約2倍に向上しています。
ちなみに、実験後に函館高専側のネットワークトラフィックを分析したところ、QoS導入前/導入後の両方とも5Mbpsの帯域をフルに使い切っている状態でしたが、後者では滞りなく実験が行えました。これはQoSサービスの優先制御に依るところが大きいと考えています。
なお、今回の実験では、函館高専と北大ノードの接続などについて、SINET3側からも多大なサポートを頂きました。この点にも大変感謝しています。

今後はどのように活動を展開していかれますか。

三好氏: 現在検討しているのが、3次元カメラと3次元プロジェクタを使った立体視による遠隔制御です。遠近感が分かれば、よりリアルな体験学習が実現できることでしょう。
また、連携先の高専の数も、どんどん増やしていきたいと考えています。将来的には、海外の学校ともこうした活動を展開していきたいですね。

今村氏: 今回のプロジェクトのような取り組みは、大学の先端研究を早い時期に体験してもらえる場として非常に有効だと考えています。今後も情報メディア基盤センターと連携しながら、いろいろな取り組みを進めていきたいですし、SINET3からのご支援にも、大いに期待しています。

ありがとうございました。