Example of Results with the Helios Supercomputer

SINETで日欧連携を加速する国際核融合研究

中島 徳嘉氏
中島 徳嘉氏

独立行政法人 日本原子力研究開発機構では、国際熱核融合実験炉(ITER)計画の補完・支援、並びに原型炉に必要な技術基盤の確立を目指す「幅広いアプローチ(BA)活動」を展開しています。
今回はその活動の一つである「国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)」の概要とSINETが果たす役割について、大学共同利用機関法人自然科学研究機構 核融合科学研究所教授 兼 幅広いアプローチ活動 IFERC事業長 中島 徳嘉氏と、日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門研究主席 小関 隆久氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2013年11月8日)

まず「幅広いアプローチ(BA)活動」の内容と目的について教えて頂けますか

小関 隆久氏
小関 隆久氏

小関氏:次世代エネルギーとして期待を集めている核融合には、燃料となる重水素を海水から取り出すことができるため地球上にほぼ無尽蔵に存在すること、燃料供給を止めれば直に核融合反応が停止するなど原理的な安全性があることなど、多くのメリットが備わっています。 現在フランスのサン・ポール・レ・ヂュランス(カダラッシュ)では、日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7極による国際熱核融合実験炉「ITER」の建設が行われており、この核融合エネルギーの実現に向けた国際的な取り組みが進んでいます。
ところがITERによる実験が成功すれば、すぐに発電ができるわけではありません。 ITERは持続的な核融合燃焼の実証研究を行うための施設であり、核融合エネルギーとして取り出すための工学的課題や、長年の使用に耐える材料の開発や、効率よくエネルギーを作り出せるプラズマの開発などが必要であり、実際に核融合発電を行うためには、発電実証を行う原型炉を作り上げて技術面や経済面での実現性も探っていく必要があります。
そこでITER計画の支援を行うと同時に、原型炉を見据えた核融合研究開発や様々な技術基盤の構築を行うためのプロジェクトがBA活動なのです。 BA活動は日本と欧州の共同プロジェクトであり、私の所属する日本原子力研究開発機構が日本側の実施機関となっています。 また、日欧の委員で構成される運営委員会の元で「国際核融合材料照射施設工学実証・工学設計活動事業(IFMIF-EVEDA)」「国際核融合エネルギー研究センター事業(IFERC)」「サテライト・トカマク計画事業(JT-60SA)」の3つの事業が行われています。

ITERだけではできないことを補完し、原型炉に必要な技術基盤を確立するのがBA活動というわけですね。 IFERCの具体的な活動内容についても伺いたいのですが。

中島氏:IFERCでは、ここ青森県・六ヶ所サイトにおいて「原型炉設計・研究開発」、「計算機シミュレーション」、「ITER遠隔実験」の3つの活動を副事業として行っています。
「原型炉設計・研究開発」活動では、日欧で原型炉の概念設計と原型炉で用いる材料の研究開発を実施しています。 原型炉では発電実証を行いますので、発電プラントとしてきちんと稼動できるレベルの設備でなくてはなりません。 設計や材料開発においてクリアすべき課題はまだまだ存在しますので、日欧の研究者が共同で研究開発に取り組んでいます。
「計算機シミュレーション」活動では、1.23PFLOPSのLinpack性能を持つスパコン「Helios」を利用して、高温高圧のプラズマを保持する上で問題となるイオン乱流輸送のシミュレーションなど、核融合研究に関わる様々な物理的・工学的シミュレーション研究を行っています。
「ITER遠隔実験」活動は、フランスのITERサイトと六ヶ所サイトを高速ネットワークで接続し、日本からITERの遠隔実験を行うための準備です。 いわば、ITERの制御室をそのまま日本へも持ってくるようなイメージですね。 遠隔実験が開始された暁には、ITER実験の条件設定やデータの収集・解析が日本にいながらにして行えるようになると考えられます。

現時点における研究成果はいかがですか。

中島氏:それぞれの活動において様々な成果が挙がっています。 「原型炉設計・研究開発」活動においては、以前は日欧の研究者がそれぞれのコンセプトに基づいて研究を進めていましたが、現在では日欧で支持される物理的・工学的な設計基盤が集約されつつあります。
また、材料研究開発の面では先進中性子増倍材(ベリライド)の製造法等新しい技術が生み出されています。 「計算機シミュレーション」活動では、日欧の大学や研究機関からの応募件数は年々増え続けており、2012年4月〜11月の第一サイクルでは62件、2012年11月〜2013年11月の第二サイクルでは82件、2013年11月〜2014年11月の第三サイクルでは122件もの応募がありました。2013年10月までに110編を超える研究論文が生まれています。
「ITER遠隔実験」活動は、これからが本番ということになりますが、準備段階としていろいろな取り組みを行っています。 例えば、ITER以外に遠隔実験が可能な核融合研究装置として、BA活動の一つである「サテライト・トカマク計画」で茨城県・那珂市に建設中の「JT-60SA」などがありますが、これらを対象に、ITER遠隔実験に先立つ検証作業を行う予定です。 遠隔実験に必要な知見を事前に積んでおけば、ITER稼動後もスムーズに研究が行えますからね。

SINETが果たしている役割についても教えてください。

中島氏:これは非常に大きいと言えます。 先にも触れた通り、ITER遠隔実験が開始されると大量のデータがフランスのITERサイトと六ヶ所サイトを行き交うことになります。特に実験後のデータは膨大な容量になりますので、高速・高信頼度のネットワークインフラが無いと研究になりません。 また、計算機シミュレーションについても事情は同じで、遠隔利用で高性能なスパコンの能力をフルに発揮させるためにはネットワークが不可欠です。そこを支えてくれているのがSINETというわけです。
ちなみに、2012年1月から2013年11月までにシミュレーションで蓄積されたデータ容量は約2PBに上ります。 またSINETの回線についても約400Mbpsの帯域を使用していますが、これらの容量やトラフィックが今後さらに増大することは間違いありません。

小関氏:実は、BA活動に向けた日欧の国際協議交渉のフェーズでも、SINETの存在が大きかったですね。 今回のプロジェクトは日欧共同事業であり、費用もそれぞれで折半しています。 当然、欧州側のユーザーとしては、六ヶ所サイトの研究資源を日本のユーザーと同じように利用できる環境を求めてきます。 従って、ネットワークインフラの充実度がプロジェクトの開始に当たっては非常にクリティカルな問題だったのですね。
その点SINETは、高速・高信頼な学術ネットワークとして世界的に知られていますから、「SINETを使う」と言えばすんなり納得してもらえました。これは非常に助かりましたね。

最後に今後の展望とSINETへの期待を伺えますか。

小関氏:ITER遠隔実験が本格的に開始されたら、広帯域なネットワークは現在にも増して重要な存在となります。 特にITERの実験で得られるデータは、関連する研究者はもちろんのこと、日本にとって大きな財産ですので、今後もぜひ高信頼で安定的なネットワーク環境を提供して頂ければと思います。

中島氏:ネットワークに関連する現在の大きな研究課題の一つに、大容量データをいかに効率的に転送するかという点があります。 現在の欧州へのデータ転送手法にはまだまだ改善すべき点も多いので、日本からも新しい提案を行っていければと考えています。 NIIにもいろいろとご協力を頂いているところですが、ハード(ネットワーク)面だけでなくこうしたソフト面での支援にも是非協力を御願いしたいです。

ありがとうございました。