e-knowledge Consortium Shikoku

「四国の知」の集積を基盤とした四国の地域づくりを担う人材育成

古川 善吾氏
古川 善吾氏

国立大学法人 香川大学では、四国内8大学と共同で「e-Knowledgeコンソーシアム四国」を設立し、戦略的大学連携支援事業「『四国の知』の集積を基盤とした四国の地域づくりを担う人材育成」を展開中です。
その狙いと現在の状況について、香川大学 工学部 信頼性情報システム科教授 兼 香川大学 総合情報センター長 古川 善吾氏と、香川大学 総合情報センター 准教授 林 敏浩氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施: 2009年7月7日)

まず、香川大学・総合情報センターの活動について伺えますか。

古川氏: 当センターでは、香川大学の基盤システム構築、情報教育の環境整備、全学データベースの構築などのミッションを受け持っています。大学の情報化推進をどのように進めていくかという企画・戦略的な部分、並びに、全学システム/ネットワークの構築・運用の両方を担っているわけです。
ICTの普及が進む中で、大学の情報センターの役割も大きく変わろうとしています。かつては、ICTに関する基礎的なリテラシー教育など、ベーシックな部分が重視されていましたが、最近では就活のサポートや各学部の専門教育の支援など、幅広い領域でICTの活用が求められています。我々としてもこうした新しいニーズを踏まえつつ、環境整備に取り組んでいます。
また、私自身は工学部との併任であり、専門分野であるソフトウェアの品質向上に関する研究のほか、ASTER(NPO法人ソフトウェアテスト技術振興協会)やJaSST(ソフトウェアテストシンポジウム)の活動にも参画しています。

林 敏浩氏
林 敏浩氏

林氏: 私は、大学院時代から教育工学を専門にしていたこともあり、総合情報センターでも教育用システムの構築、運用などを主に担当しています。具体的には、e-Learningや遠隔講義用システム、それに教育用PCの環境整備などを行っています。
また、私も工学部との併任で講義を受け持っており、学生に対して教育工学をテーマとした卒業研究指導なども行っています。

今回、四国内8大学と共同で、「e-Knowledgeコンソーシアム四国」を設立されましたが、その背景についてお聞かせ下さい。

林氏: 最近では少子高齢化が大きな話題になっていますが、ここ四国においても2050年には人口が120万人も減少すると予測されています。
こうした中で四国が自律的な発展を続けていくためには、「四国は一つ」という意識を共有し、積極的に地域づくりに携わってくれる「人」を育成する必要があります。それも、地域に根ざしつつ、高い専門性を持った人材です。
こうした活動を担うのは、やはり教育機関としては大学が適任だと思われます。もっとも、個々の大学の取り組みだけでは、どうしても限界があります。同じ四国内でも、県や地域によって特色がありますし、それぞれに得意分野もあります。
そこで浮かび上がってきたのが、コンソーシアムの設立でした。四国内の大学が広域に連携することで、共に人材育成に取り組めればと考えたわけです。

具体的にはどのような人材の育成を目指されるのですか。

林氏: 一つは、四国の活性化を先導できる人材、つまり「四国を元気にしてくれる人材」です。たとえば、四国への愛着心・郷土愛の醸成や、四国の観光・文化資源への理解を広める活動など、四国を盛り上げる活動を担ってくれる人材ですね。
また、もう一つは、農林水産業の高度化を担う人材育成です。ご承知の通り、四国は農林水産業が重要な基幹産業になっています。そこで、農商工連携のビジネスモデルを構築したり、農林水産業製品のブランド化・高品質化などを担える人材も育成できればと考えています。

現在の活動状況を教えて下さい。

林氏: 今回の事業では、「四国の知」の集積を掲げていますが、そのベースとなるのが、四国の広域的課題や資源・ブランド・歴史・地勢・文化・伝統などで構成される「四国学」です。
最終的には、この四国学に関するコンテンツを広く活用していく予定ですが、本年度(平成21年度)は、各大学においてコンテンツを制作・蓄積するフェーズになります。本学でも鋭意制作に取り組んでおり、地元・香川をテーマにした「讃岐学」の講義など、10本程度のコンテンツを制作しています。
また、実際の人材育成では各種の専門教育なども必要になると考え、情報リテラシー関係の講義などもコンテンツ化を進めています。
コンテンツの本格的な活用フェーズは来年度以降になりますが、できるものについては、本年度の後期から利用を進めたいと考えています。

システム的には遠隔講義とe-Learningが中核になるとのことですが。

林氏: いくら四国内での取り組みとは言え、実際に学生が他の大学で講義を受けるのは大変です。場合によっては、県間をまたいで移動する必要も出てきますしね。そこで、遠隔講義とe-Learningを活用し、自分の大学に居ながらにして講義を受けられるようにしたいと考えました。
まず、遠隔講義に関しては、各大学にハイビジョン対応のビデオ会議システム(Polycom®等)を導入し、これを利用して講義を行う予定です。大学によって講義の開始時間が異なるなどの問題はあるので、この点については今後検討していく必要があります。ちなみに、コンソーシアム内の会議についても、同様に移動の問題がありますので、Microsoft社のLive Meetingを利用して遠隔会議を実施しています。
また、e-Learningについては、講義を収録した動画や、Flash化された教育コンテンツなどを各大学のLMSに置き、他大学からアクセスできるようにする予定です。

その際のネットワークを担うのがSINETというわけですね。

古川氏: その通りです。大学間連携の取り組みを行う上では、各大学を結ぶ高速な情報通信インフラが欠かせません。今回の事業についても、SINETという学術ネットワークが存在することが大前提でした。
一昔前であれば、こうしたことをやりたいと思ったら、まず各大学を結ぶネットワークをどう構築するかというところから始める必要がありました。これでは非常にハードルが高い。
その点今回は、ネットワークの部分については心配することなく、最初から具体的な取り組み内容に注力できました。もしSINETがなかったら、とてもこうは行かなかったでしょうね。

SINETへの期待などがありましたらお聞かせ下さい。

林氏: ネットワークの高速性、信頼性などについては、特に心配はしていません。
ただ、e-Learningのコンテンツを利用する際には、学生が他大学のLMSにアクセスするケースもありますので、この時のユーザー認証をどうするかという課題も残っています。
現在はShibbolethの利用を検討していますが、こうした部分でもSINETの支援を仰げるとありがたいですね。

最後に今後に向けた抱負をお聞かせ下さい。

林氏: 戦略的大学連携支援事業としては平成22年度で一区切りを迎えますが、人材育成にはもっと長期的なスパンで取り組む必要があります。そこで、平成23年度以降についても、四国の知に関する教育プログラムを継続実施していく予定です。
また、大学だけでなく、美術館・博物館や各種の文化施設、自治体など、地域の様々な組織・団体とも連携して事業を展開していく必要があります。実は私自身も、地元・香川県の出身ですので、「四国の元気」にできるだけ貢献していきたいと考えています。

古川氏: ICTやネットワークの活用によって、四国が一つにまとまる足がかりができれば嬉しいですね。
また、総合情報センターでは、今回のプロジェクト以外にも、香川大4キャンパスを結ぶネットワーク環境の改善など、様々な課題を抱えています。こうした取り組みを進めていく上でも、今後のSINETの発展と支援に大いに期待しています。

ありがとうございました。