電子計算機システムの概要

SINET L2VPNを用いた商用クラウドメール接続

辻澤 隆彦氏
辻澤 隆彦氏

東京農工大学では、2011年に全学情報基盤のプライベートクラウド化を実施。電子メールシステムについては商用クラウドサービスを採用し、SINET4のL2VPNサービスによる接続を行っています。
その狙いと効果について、東京農工大学 総合情報メディアセンター教授 辻澤 隆彦氏と、同准教授 萩原 洋一氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2011年12月20日)

東京農工大学は今回で2回目の登場となりますが、まず前回の取材でお伺いした遠隔講義のその後の状況について教えて頂けますか。

萩原氏:前回の取材(「全国18連合農学研究科を結ぶ遠隔講義システム」参照)は3年前になりますが、あれからさらに活発に利用されるようになっています。 遠隔講義システムの稼働時間は年間約2,000時間近くに達しており、毎日1~2コマの遠隔講義が行われています。また、会議や面接、論文審査など、講義以外の用途でも広く利用されるようになっています。
システム構築にあたって、画質と使い勝手にとことんこだわったことが良かったのでしょうね。ちなみに、本学と岩手大学が共同で設置する共同獣医学科(2012年4月設置予定)でもこのシステムを活用するほか、教育系分野などでの利用も現在検討中です。

利用頻度も適用領域も順調に拡大しているというわけですね。
さて、今回は2011年より稼働した新たな全学情報基盤について伺いたいのですが。

辻澤 隆彦氏
辻澤 隆彦氏

辻澤氏:今回の新情報基盤調達では、「ITインフラの低消費電力化」と「スペース効率向上」の2点を主眼に置きました。 学内で稼働する様々なシステム群をプライベートクラウド環境へ移行すると同時に、端末のシンクライアント化なども図ることで、これらの実現を図ったのです。
実際に構築したシステムでは、従来約60台あった物理サーバを半分の30台に削減し、ラックスペースを大幅に空けることに成功しています。省電力化の効果も大きく、以前より約40%程度電力消費量を低減させることができました。

まさに狙い通りですね。電子メールシステムについては民間の商用クラウドサービスへ移行されましたが、これはどのような経緯があったのですか。

萩原氏:本学は平成元年からメールサービスを提供しており、既に20年以上もの運用実績を積んでいます。 しかし、近年ではスパムメールが急激に増加し、その対応に多くの負担を強いられるようになりました。 メールはもはや大学の基幹システムですから、決して止めることはできません。しかし、その対応をいつまでも自前でやっていたのではキリがない。そこで商用サービスの利用を検討し始めたのです。

商用サービスの採用にあたっては、どのような点を要件とされたのですか。

辻澤氏:まずは、しっかりとしたウイルス・スパム対策機能を備えていること。 それと充分な容量のメールボックスが確保されていること、大容量の添付ファイルが利用できること、コスト面でリーズナブルであることなどですね。
ウイルス・スパム対策については言うまでもありませんが、以前のシステムでは1ユーザーあたりのメールボックス容量が100MBしかなく、最近の利用状況には少々合わなくなっていました。 添付ファイルについても大容量のファイルを送受信するケースが増えているので、それに対応できることが必要でした。
また、本学には教職員・学生合わせて約11,000名のユーザーがいますので、一人あたりのアカウント費用や一時的な変動費用をできるだけ抑えることも重要なポイントでしたね。

最近では無償で利用できるクラウドサービスなども提供されています。
そうしたものは候補に挙がらなかったのですか。

萩原氏:全く考えなかったわけではないのですが、本学の場合には機密性の高い研究情報も数多くやりとりされます。 無償サービスには、メールデータの商用利用や国外保管、返却不可などの条件が付いているものが多いので、先端研究に注力している本学の要件には合わなかったのです。

辻沢氏:最終的には、これらの要件を全て満たすアカデミック分野向けクラウドサービスを採用すると同時に、ファイル転送サービスなども併用してメールシステムの負荷軽減を図っています。 利用者からの評判は上々で、「以前よりスパムが減った」「安全にファイルをやりとりできるようになった」といった声が寄せられています。

2011年12月には、SINET4の新サービスである商用クラウド接続サービスを利用して、学内のクラウド環境と商用メールサービスを接続されていますね。

辻澤氏:今回の基盤調達ではメールシステムを外部へ出しましたが、元々は完全なプライベートクラウド環境で全システムを構築したかった。 その点、商用クラウド接続サービスを利用すれば、SINET4のデータセンタとサービス提供事業者とをSINET4のL2-VPN回線で直接結ぶことができます。よりセキュアで安定的な環境が実現できますので、これを利用しない手はないと考えたのです。 学内のICTインフラと外部の商用サービスをSINETで接続するのは、我々にとっても初の試みですが、特に問題もなくスムーズに接続できましたね。

SINETと商用サービスが接続できることの意義についてはどうでしょうか。

辻澤氏:非常に大きいと思いますね。本学の場合はメールシステムに適用しましたが、これはメールに限らずいろいろな種類の上位レイヤーサービスに適用できます。 ストレージサービスでも構わないですし、アプリケーションサービスでも構わないわけです。今後は様々な民間事業者がアカデミック分野向けのクラウドサービスを提供するでしょうから、そうしたものとの橋渡し役をSINETが担ってくれるのは大変ありがたい。

萩原氏:3.11の東日本大震災をきっかけに、大学でもBCPの重要性が再認識されるようになっています。 もしキャンパスが被災したら、大事なデータや業務環境を失ってしまう可能性も大きい。しかし、商用サービスとの連携が可能であれば、そうした時の対応に役立つ部分も少なくないでしょう。
もちろん、外部でデータを保管する際のセキュリティなど、解決すべき課題も少なくありませんが、今後はこうしたものの活用も視野に入れておく必要があると感じますね。

最後にSINETへの期待をお聞かせ下さい。

辻澤氏:SINET4からはデータセンタへの接続を行う形になりましたが、この設計思想は非常に素晴らしいと思います。 3.11の際にもネットワークへの影響を最小限に留めるなど、高い信頼性・耐障害性を実証できました。 ネットワークは我々の活動を支える生命線ですから、今後もこうした取り組みを続けて欲しいですね。

萩原氏:SINET4へ移行したことで、ノード未設置県や帯域の問題がかなり解消されたことも高く評価できます。 特に農学連携では、ネットワーク事情の良くない大学との接続も多いので、こうした点が改善されることはありがたい。今後もぜひインフラと学認やeduroamなどのサービスの拡充に努めて頂ければと思います。

ありがとうございました。