AWSを利用したハイブリッド・クラウド環境の構築

近畿大学では、SINETクラウドサービスを活用して、近畿大学データセンタとアマゾン・ウェブ・サービス(以下、AWS)を結ぶハイブリッド・クラウド環境を実現しています。
その狙いと成果について、お話を伺いました。

牛島 裕氏
牛島 裕氏

近畿大学では、SINETクラウドサービスを活用して、近畿大学データセンタとアマゾン・ウェブ・サービス(以下、AWS)を結ぶハイブリッド・クラウド環境を実現しています。
その狙いと成果について、近畿大学 総合情報システム部事務長 牛島 裕氏と、同 総合情報システム部 教育システム課 髙木 純平氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2015年3月6日)

近畿大学は全国でも有数規模の大学ですが、情報基盤の整備をどのように進めておられるのですか。

牛島氏:本学は13学部・48学科と法科大学院、大学院11研究科、短期大学部で組織されており、西日本を中心に6ヶ所のキャンパスを構えています。 また、それ以外に通信教育部や九州短期大学、高専、附属高校/中学/小学校/幼稚園などのシステム/ネットワークも大学側で設計しています。
学内情報基盤の規模も必然的に大規模化せざるを得ず、インフラの構築・運用に掛かるコストも嵩んでしまいがちなため、数年前から事務系システムを中心に仮想化を行いデータセンタへの集約を図っています。

髙木 純平氏
髙木 純平氏

髙木氏:全国どのキャンパスでも均質なサービスを提供できるよう心がけています。 たとえば、福岡キャンパスで学ぶ学生が、就活で大阪に来るようなことも考えられます。 こうした時にも東大阪キャンパスのWi-Fiなどを利用できるよう、サービスに使用するID/パスワードの統一化などを実施しています。 拠点の中にはネットワーク事情の良くない遠隔地の実験場や農場もありますが、こうしたところについても手を尽くして大学のWANに接続できるようにしています。
また、もう一つのポイントとして、情報基盤においても新たな取り組みに挑戦している点が挙げられます。 ご存知の通り、本学では近大マグロやバイオコークスなどの先端研究が盛んに行われています。 総合情報システム部としても、これと同様に教育研究を支える先進的なICTインフラを実現していきたいと考えています。

今回、SINETクラウドサービスとAWSを利用したハイブリッド・クラウド環境を国内で初構築されました。これもそうした取り組みの一環というわけですね。

牛島氏:先に仮想化について触れましたが、そもそも本学では、大量のサーバ群をオンプレミスで構築・運用するのが本当に適切なのかという疑問を以前から抱えていました。 自前でサーバを持つとなると資産管理も必要ですし、場所も電気代も掛かってしまいます。障害やトラブルが発生したら、その対応も行わなければなりません。 しかもそれでいて、5~6年経ったらまた更新作業を行わなくてはならない。これでは、いつまで経ってもコストや手間が増大する一方です。

髙木氏:そのような状況を解消する手法として注目したのがクラウドの活用でした。
その手始めとして、まずGmailを導入。オンプレミスと比較して1/10程度にコストが下げられることが分かったため、その後も様々な分野でSaaSの導入・活用を進めていきました。
そうしているうちに、IaaSについても国内での普及が進み、可用性が向上してきましたので、クラウド活用の第二ステップとしてハイブリッド・クラウドの構築を考えたのです。

SINETクラウドサービスとAWSを採用されたのはどういう経緯からだったのですか。

髙木氏:AWSは他社のIaaSより商用サービスでの導入実績が豊富な上、運用機能も充実しています。 また、本学とアマゾンジャパン社とは、同時期に教科書販売分野での連携協定を結んだこともあり、候補に挙げたクラウド事業者の中でも最有力候補でした。
さらに、この取り組みを後押しすることになったのが、SINETクラウドサービスの存在です。 検討を進めている最中に、SINETクラウドサービスはAWSと直結できるらしいとの話を聞き、それならこれを利用しない手はないと思いました。

SINETクラウドサービスのどのような点を評価されたのですか。

髙木氏:まず一点目は、SINETの広帯域なネットワークでクラウドに接続できるという点です。 また、商用回線での接続を行うとなると高額なコスト負担が発生しますが、SINETならその心配もありません。
さらに、L2VPNでの接続ですから、大学の通信基盤に欠かせない高いセキュリティも確保できます。 特に本学では通信ポリシーの一元管理を行っており、データセンタやAWSへの通信は、すべて一度学内のファイアウォールを経由した上で行うような構成を取っています。 当然、大量のトラフィックが集中するケースも考えられるわけですが、SINETくらい広帯域なネットワークであればこれも余裕をもってさばけます。

導入にあたって注意したポイントなどはありますか。

髙木氏:本学がファーストユーザーということもあり、まずは万一のリスクを避けるためにスモールスタートで始めることにしました。
具体的にはWebサーバ2台とスパム対策サーバ、DNSをAWS上で構築。 また、万一トラブルがあった場合に備えて、安価なバックアップ用の商用回線も別に用意しておきました。
AWS廻りでは多少苦労する場面もありましたが、SINETクラウドサービスについては特に問題となるようなことはありませんでしたね。 現在も高いスループットを発揮できており、大いに満足しています。

ハイブリッド・クラウド環境を構築したことの意義についても伺えますか。

牛島氏:本学では非常に大規模かつ広域な情報基盤を運用していますので、ICT投資の最適化を図っていくという面でのメリットは非常に大きいと考えています。
従来のインフラ構築というのは、いわば自分の土地に家を建てていくようなもの。これを借地借家にすれば、自前で資産を持つ必要もなくランニングコストだけで済みます。 また、それと同時に、新たなユーザーニーズへの即応が図りやすくなるというメリットもあります。

今後はどのような形でクラウド活用を進めていかれるのですか。

髙木氏:教育系システムについては、既に5年先までを見据えた移行計画を立てています。 そこでは各システムの要件に合わせて、データセンタ、AWS、学内と設置場所を変えていく予定です。 たとえばADサーバのように学内で大量のトラフィックが生じるものは東大阪キャンパスに、DMZのように学内・学外問わずアクセスが発生するものはAWSにといった具合ですね。
さらに将来的には、学内からサーバやストレージなどの機器を一掃し、ネットワークスイッチしか残らないような環境を目指したい。 クラウド化によって運用管理工数も減ると考えていますので、その時間をこうした戦略・戦術立案の部分に充てていきたいと思います。

最後にSINETとNIIへの期待を伺えますか。

牛島氏:欧米諸国と異なり、日本では大学の約8割が私立大学です。 本学もいわば日本の文教施策の一端を支えているわけですが、そうした中でSINETをはじめとするNIIのサービスにはいつも非常に助けられています。
大学運営にもICTが深く関わるようになり、またICTを活用したサービス化が加速し続ける現在では、これに比例して解決すべき課題も増加の一途です。 クラウド利用も例外ではなく、そうした意味からも、NIIには今後とも幅広い分野での支援を期待しています。

ありがとうございました。