クラウドサービスを活用した遠隔データバックアップシステムの構築
聖泉大学では、SINETクラウドサービスを活用した遠隔データバックアップシステムを構築。重要業務データの保護や事業継続性の強化に役立てています。
その背景と導入後の成果について、聖泉大学 情報センター課長 上西 恵史氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2015年3月11日)
まず聖泉大学の概要と特色について伺えますか。
上西氏:本学は1985年に設立された聖泉短期大学を前身としており、開学以来一貫して社会と地域に貢献する人材の育成を目指しています。
2003年には4年制大学への移行を実施し、現在は人間学部と看護学部の2学部で構成されています。
4月からは大学院看護学研究科と別科助産専攻が加わりますが、学生数が約600名の小規模な大学ですから、「地域に根ざし、地域に親しまれ、地域に貢献する」をモットーに、少人数ならではの特色を活かした教育研究を行っています。
その中で情報センターはどのような役割を担っているのですか。
上西氏:工学系/情報系の学部を擁する大規模大学などでは、情報センターが研究機関としての側面を持っていることも多いですが、本学では学内情報基盤の構築・運用が主なミッションとなっています。
インフラ整備からPC教室の管理運営、ヘルプデスク、貸し出しPCの受付まで、情報と名の付く業務は何でもやりますね。
コンピュータ技術そのものの習得が目的だった時代と異なり、現在ではコンピュータをどう教育研究に活かすかが問われています。 そのための環境整備に注力すると同時に、セキュリティ対策などについてもしっかりと取り組んでいます。
今回、遠隔バックアップシステムの構築に取り組まれた背景を伺えますか。
上西氏:かつては本学でも、テープメディアを利用したバックアップを行っていました。 しかし、サーバ台数やデータ容量が年々増加する中で、作業負担も増え思うようなバックアップ運用が行えなくなってきました。
こうした課題を解消するために、数年前からRAID-5対応の安価なNAS装置を導入。これを直接サーバに接続してバックアップを行うことで、作業負担の軽減やバックアップ運用の効率化を図りました。 とはいえ、その一方で、依然として解決できない課題もありました。
それは、大規模自然災害や火災などの事態が発生した時に、重要な業務データをどのようにして守るかという点です。 学内にバックアップデータを置いておく限り、もしキャンパス自体が被災するようなことがあれば共倒れになりかねません。
大学の事業継続性を高めるためにも、安全な遠隔地施設へのバックアップが強く求められていたのです。
遠隔バックアップの実施にあたって課題となった点などはありましたか。
上西氏:やはりセキュリティですね。今回のプロジェクトでは、教職員と学生用のファイルサーバとメールサーバがバックアップ対象になっていますが、ファイルサーバはもとよりメールについても学生の個人情報に関わるやりとりが行われるケースが少なくありません。
こうしたデータを学外に持ち出すとなると、安全性の確保は大前提となります。
また、ネットワーク帯域の問題もありました。 以前この地域では100Mbpsベストエフォートのサービスしか提供されていなかったので、大量のバックアップデータをネットワークで転送するのはかなり厳しかったのです。
幸い、2011年12月から、フレッツ光ネクストの1Gbpsベストエフォート回線が利用できるようになったので、ようやく遠隔バックアップが現実のものとして視野に入ってきました。
そして、もう一つ無視できなかったのがシステムの構築・運用に掛かるコストです。
これは企業などでも同じだと思いますが、バックアップ自体は大学の直接的な利益につながりませんし、学生サービスの向上にも結びつきません。 そこに果たしていくら投資できるのかというのは悩ましいところでしたね。
最終的にSINETクラウドサービスを採用されたわけですが、その経緯と決め手を伺えますか。
上西氏:いろいろ検討を行っていたところ、富士通から「Fujitsuアカデミッククラウドサービス」がSINETクラウドサービスに対応するとの案内をもらいました。 これならSINETのL2VPNを利用したセキュアなバックアップが行えますので、最大の懸案であった安全性面での不安を払拭することができます。
さらにバックアップデータを暗号化しておけば、万一データセンタからデータが持ち出されるような事態が起きても、内容を見られてしまう心配はありません。
また、システム構築に多額の費用を投じなくて済むという点も非常に魅力的でしたね。 作業としてはVLANタグを付けるくらいですから、特殊なネットワーク装置などを新たに導入したりする必要もありません。
まさに本学のニーズにピッタリのサービスだったので、早速遠隔バックアップの基盤として採用することを決めました。
現在はどのような形でバックアップ運用を行われているのですか。
上西氏:ちょうど教職員用ファイルサーバが更新時期を迎えていましたので、本件への適用を考えて筐体間レプリケーション機能を備えた富士通の「ETERNUS NR1000F」を導入。これを本学キャンパスと富士通データセンタに1台ずつ設置し、毎日夜間にデータ転送を行っています。
構築にあたっての工夫点としては、暗号化したメールサーバ/ファイルサーバのデータを一度ファイルサーバのバックアップ用領域に事前集積し、その領域を2台の装置間で同期させている点が挙げられます。
各業務サーバのデータを個別にバックアップするとなると、スケジューリングをどうするかといったことも考える必要がありますが、この方法であればそうしたことを考慮しなくても済みます。
具体的な運用フローとしては、毎日20:00からファイルサーバへのデータ集積を開始。その後翌日4:00からデータセンタへのレプリケーションを実施しています。現時点でのバックアップデータ容量は約150GB/日程度ですが、翌朝7時頃には作業が完了していますので全く問題ないですね。
SINETクラウドサービスの導入メリットについてはどうでしょう。
上西氏:バックアップは大学にとっても大事な取り組みです。とはいえ、先にも触れた通り、そこに手間やコストを費やすことが価値には結びつかないのが悩みの種でした。
それをSINETクラウドサービスによって解消できたということは、本学にとって非常に大きなことだと感じています。 構築作業も非常にスムーズで、利用申請開始から本稼動まで1ヶ月あまりしか掛かりませんでした。
今後はどのように取り組みを発展させていかれますか。
上西氏:当初はメールサーバ、ファイルサーバを対象としていましたが、来年度には教務システムなどのバックアップも今回のシステムに集約し、データ保護体制のさらなる強化を図っていく予定です。
また、今後はバックアップ用途以外でのクラウド活用も視野に入ってきますので、SINETとNIIにも引き続き様々な支援を提供してもらえればと思います。