SINET4を活用した大学クラウドイメージ

学内ICTインフラのクラウド移行

中村 直人氏
中村 直人氏

千葉工業大学では、SINETクラウドサービスを活用してネットワーク系基幹サーバのクラウド移行を実施。運用管理負担の軽減やBCP強化に役立てています。
その概要と成果について、千葉工業大学 情報システム委員会委員長 情報科学部情報ネットワーク学科教授 中村 直人氏と、情報システム課課長 村上 吉信氏、同 河村 俊一氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2015年3月16日)

千葉工業大学における教育研究の特色についてお聞かせ下さい。

中村氏:「世界文化に技術で貢献する」を建学の精神として掲げる本学では、津田沼・新習志野の両キャンパスに最新鋭の研究設備を導入。教育システムや修学支援体制の整備・拡充なども図ることで、高度な専門知識と豊かな教養を身に付けた人材の育成を進めています。

また、本学のもう一つの大きな特色として、大学直轄の研究機関を設けている点が挙げられます。
たとえば2003年設立の未来ロボット技術センター(fuRo)では、震災で被災した福島第一原発の調査にも利用されている「Quince」「桜壱號」をはじめ様々な先端ロボットの開発を進めています。
また、2009年設立の惑星探査研究センター(PERC)でも、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載するレーザー距離測定器やカメラの開発など、様々な先進プロジェクトを進めています。

2015年度にはAI関連の研究機関も新たに設置する予定ですが、こうした独自の研究機関を有することが、本学の教育研究を推進する大きな原動力となっています。

学内ICTインフラのクラウド化にも力を入れているそうですが。

中村氏:2003年頃から各種業務サーバ群を学外へ出す取り組みに着手し、教務システム/図書館システムのクラウド化や就職システムの共同運用化、演習室システムへのDaaS導入など、様々なプロジェクトを進めてきました。
本学では街中にキャンパスを構えていますので、サーバの設置スペースにも限界がありますし、電力・空調コストも嵩みがちです。
また、セキュリティ的な観点から考えても、学生の重要な個人情報を取り扱うようなシステムは、安全なデータセンタに置いた方が良いだろうと判断したのです。

村上 吉信氏
村上 吉信氏

村上氏:それに加えて、運用管理工数の削減も大きなポイントでした。
情報システム部門でもそれほど多くのスタッフを抱えているわけではなく、新習志野キャンパスなどは無人で運営しているほどです。
限られた人員で大量のサーバ群の安定運用を図るのは非常に負担が重いので、外部サービスの積極的な活用を図っているのです。

今回はネットワーク系基幹サーバのクラウド化を実施されました。その理由は何だったのでしょう。

中村氏:様々な業務システムのクラウド化を進めていく中で、唯一最後まで学内に残っていたのが、DNS、DHCP、LDAP、AD、IdPなどのネットワーク系基幹サーバでした。
これらが学内にあったために、東日本大震災の際には、計画停電の影響で学外のサービスにアクセスできなくなってしまったのです。いくらクラウド側のシステムそのものが無事でも、DNSが引けないのでは繋がりませんからね。 従来から両キャンパス間を結ぶ回線の冗長化なども行ってきましたが、これも結局は役に立たなかった。
こうした状況を抜本的に改善するためには、ネットワーク系基幹サーバもクラウド化するしかないとの結論に至ったのです。

構築にあたってはどのような点を要件とされましたか。

中村氏:まず一点目は、安定運用を実現できる高い信頼性・可用性を備えていることです。
また、重要な情報がやりとりされるネットワークですから、セキュアで高速な接続が行えることも重視しました。 あとは日々の管理・運用まで含めて一元的なアウトソーシングが行えるという点です。

その結果選定されたのがSINETクラウドサービスだったというわけですね。

中村氏:そういうことです。SINETクラウドサービスを利用すれば、学内LANの延長としてL2レベルでのクローズドなネットワークが実現できます。
しかも、この環境がそのまま商用クラウドと直結されているとなれば、まさに本学のニーズにピッタリです。
また、今回は、NTT東日本の「Biz光クラウド安心サーバホスティング」を利用していますが、これは名称にもある通りホスティングサービスなので、自前で物理的なサーバ資産を持つ必要がありません。 これにより維持・運用コストの削減も図れます。

実際に構築された環境についても伺えますか。

中村氏:現在は津田沼・新習志野の両キャンパスからSINETに接続すると同時に、両キャンパス間を結ぶ回線も用意して、トライアングル型のネットワーク環境を構築しています。
これにより、万一どちらかのキャンパスから接続できなくなった場合も、もう一方のキャンパスを経由することでアクセスが可能です。
また、ネットワークインフラは一度構築すると7~8年は使い続けるものですから、SINET-データセンタ間の接続も含めて全ての経路で10Gbpsの帯域を確保し、今後のトラフィック増大にも備えています。

構築にあたって苦労された点などはありましたか。

河村 俊一氏
河村 俊一氏

河村氏:今までは学内で運用していたネットワーク系基幹サーバを外へ出すわけですから、最初は正直不安もありました。
しかし実際に作業を行ってみると、特に苦労するような場面もありませんでしたね。 両キャンパスとSINETクラウドとの接続作業についても、拍子抜けするくらいスムーズに進みました。

中村氏:ネットワーク系基幹サーバのクラウド化を行うとなると、遅延に対する不安を感じる方も多いことと思います。 ちなみに本学のケースでは、学内にあった時代のレスポンスが3~4msecだったのに対し、現在は18~20msecとなっています。 確かに多少遅くはなっていますが、Googleのサーバを使うのにも30~40msec掛かりますので実用上は全く問題ありません。
しかも本学では学生にiPadを貸与すると共に、530台の無線LAN APもキャンパス内に設置していますが、これらの認証も特に支障なく行えています。 なお、本学では、キャンパスの基幹スイッチと末端の教室・事務室を光ファイバーで直収する「FTTD(Fiber to the Desk)」を2004年から構築していますが、これとクラウド化との相性も非常に良かったですね。

最後にプロジェクトの総括と今後の展望を伺えますか。

中村氏:まず大学のBCP強化という面では、予想通り非常に大きな成果がありました。
現在では大規模自然災害への対応はもちろん、建物の法定点検による停電などの影響も受けずに済むようになっています。
SINETの回線品質も非常に高いので、常に安定的なサービスを提供できていますね。 また、運用管理の効率化・省力化という意味でも、従来の取り組みをさらに一歩進めることができました。
今後は今回のようなインフラ分野だけでなく、先端研究の分野でもSINETのサービスを積極的に活用していきたいと考えています。

ありがとうございました