非圧縮8K高精細映像転送実験 ―8K超高精映像処理システム―

神奈川工科大学では、8K超高精細映像処理システムの研究を行っています。本研究の概要と成果、並びにSINET 5が果たしている役割についてお話を伺いました。

学校法人 幾徳学園 神奈川工科大学では、8K超高精細映像処理システムの研究を行っています。本研究の概要と成果、並びにSINET 5が果たしている役割について、神奈川工科大学 情報学部 情報ネットワーク・コミュニケーション学科 教授 丸山 充氏と、同 特任教授 瀬林 克啓氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2020年11月10日)

まず、8K超高精映像処理システムの研究目的について教えて下さい。

丸山 充氏
丸山 充氏

丸山氏: 当研究室では、非圧縮8K映像伝送技術の研究を行っています。その番組制作環境を、クラウドインフラで実現できないかというのがきっかけになりました。テレビ番組を見ていても、実写映像に特殊効果やテロップなどを重ね合わせたシーンがしばしば出てきます。8K映像はデータ容量が大きいため、あのような処理を行おうとすると非常に時間が掛かります。そこで、8K編集設備のアクセラレーションをクラウドで行えないかと考えたのです。また、高精細な8K映像は、医療分野でも非常に有望ですので、医師が遠隔診断を自在に行えるような環境も実現できればと思いました。

その実現に向けては、どのような技術が求められますか。

丸山氏: 一つはクラウドとエッジの連携によってリアルタイム処理を可能にする「映像処理プラットフォーム技術」、それともう一つは、高精度なモニタリングや仮想ネットワークの制御を行う「ネットワーク・クラウド制御技術」です。この両者が協調することで、8K映像をより容易に活用できるようになります。その実証実験の場として、SINETやJGNを利用しているわけですが、なにしろ8Kですから映像のレートが非常に高い。そこで本学では、SINET5と100Gでの接続を行っています。

瀬林 克啓氏
瀬林 克啓氏

瀬林氏: 少し補足すると、この場合のクラウドとは後述するNFV(Network Function Virtualization)のような分散コンピューティングリソースのことを、またエッジとは最終的にユーザーにデータを引き渡す集約点のことを指します。特に後者については、NTTの局舎のようなものをイメージすると分かりやすいでしょう。

これまでの研究の歩みについても伺えますか。

丸山氏: まず伝送技術については、2014年に世界初となる非圧縮8K映像の伝送に成功。その後、2016年にリアルタイム暗号化伝送、2017年に世界初の109Gbps伝送、2020年にはフル解像度8K映像の3D伝送を実現しました。これらの取り組みに関しては、基本的に伝送装置の台数を増やしてパラレルで伝送するという、シンプルかつ力業のコンセプトですね(笑)。
 さらに、伝送ができたら次は映像データの蓄積だということで、2015年にNICTのStarBED上に仮想8K-DGサーバを実装。その後2017年にフル解像度8K対応映像サーバを実装し、現在はNIIのNFVサーバ群を利用して8K分散サーバを構築する取り組みを進めています。

8K分散サーバの構築には、どのような狙いがあるのですか。

丸山氏: クラウド上の空きVM(仮想マシン)を使った、リアルタイム8K映像サーバを実現することが目的です。クラウド上には、使われていないVMが数多く存在します。ここにリソースを割り当てることができれば、システムのコストや柔軟性を大きく改善できる可能性があります。もちろん、そのためには、様々な手法を確立する必要がありますので、NIIのNFVを使ってこれに挑戦しようと考えたわけです。今回の実験環境では、札幌DCに6台、東京DCに2台のVMが配置されており、1VMあたり3Gbps、トータル24Gbpsを達成しています。この実験を通して、分散サーバによるスムーズな映像伝送を実現するためのノウハウやチューニング方法も得られました。

図1:8Kサーバ分散配置
図1:8Kサーバ分散配置

その次にはどういうステップに進まれたのですか。

丸山氏: 伝送と蓄積の次は、やはり処理を入れたいだろうということで、エッジとクラウドの連携技術による高速映像スイッチングに挑みました。従来型のIPマルチキャストを用いた映像スイッチングだと、切り替えの際に映像が数秒~10秒ほど途切れてしまいます。これではとてもプロには使えないので、DPDK(Data Plane Development Kit)を用いてエッジ部で切り替える方法を編み出しました。さらに、これに加えて、サービスチェイニングを導入することで、映像切り替えやメディアの合成・分離、遅延調整といった映像処理機能を自在に連携できるプラットフォームの構築にも取り組んでいます。

図2:SINETによる遅延付加実験
図2:SINETによる遅延付加実験

こうした実証実験や研究には、学生も積極的に参加されているそうですね。

瀬林氏: ネットワークが企業や大学のインフラになったことで、昔のようにユーザーが気軽にさわることができなくなりました。その結果、基本的な知識を持たない人が増えたようにも感じています。我々は「実践力の育成」と「資格取得支援」を教育の重要方針としていますので、意欲のある学生には実証実験にどんどん参加してもらい、実際に手を動かすことでスキルを習得してもらっているのです。ちなみに学生たちは、光ファイバーケーブルの配線も自分で行いますので、情報学部棟の天井裏や立坑の構造もすべて知っていますよ(笑)。

学生にとっても貴重な場となりそうです。

瀬林氏: 我々の研究は、NTTグループ各社をはじめとする企業やNII、NICTなどの研究機関とのコラボレーションで成り立っています。せっかくこうした場に身を置けるわけですから、各分野のプロからたくさん学んで刺激を受けて欲しい。特に、NIIには実験関係で様々なお願いをすることも多いのですが、学生が連絡しても真摯に対応してもらっています。また、共同研究を行っている先生方も様々なアドバイスを下さいますので、こうした点に関しても大変ありがたく感じています。

SINET5が果たしている役割についても伺えますか。

丸山氏: 本学では、インフラ用回線とは別に実験用回線として100Gのネットワークを導入していますが、これだけの帯域を広域で使えるネットワークを自前で用意するのは不可能です。さっぽろ雪まつり会場を舞台とした8K映像伝送実験では、北海道・東京・大阪・沖縄・本学を結んだ環境を構築しましたが、こうしたものもSINET抜きには成り立ちません。我々の研究にとって、必要不可欠な存在と言えますね。

瀬林氏: 加えてSINET5は、Internet2やGÉANTといった世界中の学術ネットワークともつながっています。将来的には我々の映像ソースだけでなく、海外の天文台など様々な研究機関の映像を配信するといったことも考えられますね。

今後はどのような展開を考えておられますか。

丸山氏: これまでは24G/48Gの8K非圧縮フォーマットを取り扱ってきましたが、次はフルスペック8K映像の伝送を行いたい。その場合は、伝送レートが144Gbpsにも上りますので、次期SINETへの期待も大きいですね。また非圧縮8K映像をAISTのAIマシンに送って、リアルタイムに学習させるような取り組みも進めたいと思っています。

ありがとうございました。