北陸三県の国立大学を結ぶ双方向遠隔授業システム

北陸三県の国立大学では、各大学間を結ぶ双方向遠隔授業システムを構築・運用しています。
このシステムの狙いと成果について、お話を伺いました。

田中 一郎氏
田中 一郎氏
北陸三県の国立大学(金沢大学・富山大学・福井大学・北陸先端科学技術大学院大学)では、各大学間を結ぶ双方向遠隔授業システムを構築・運用しています。
このシステムの狙いと成果について、北陸地区国立大学連合協議会で学生教育系専門委員会議長を務められている金沢大学 大学院 自然科学研究科教授 田中 一郎氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2008年9月30日)

金沢大学をはじめとする北陸地区の国立大学では、各大学間の連携を深める取り組みをいろいろと行われているそうですね。

田中氏: 金沢大・富山大・福井大の3大学では、各大学の学長が出席する会議を以前から開催しており、研究の分野ではもちろん、非常勤講師を相互派遣するなど、交流を深めていました。
こうした大学間の連携をさらに深めるために、平成16年に北陸地区国立大学連合協議会を設立。この中に様々な専門委員会を設置し、教育・研究インフラの整備や地域連携活動、事務効率化の推進などの取り組みを行っています。

今回の双方向遠隔授業システム構築プロジェクトは、どのような経緯でスタートしたのですか。

田中氏: これまで各大学では、非常勤講師の相互派遣や単位互換の申し合わせを積極的に進めてきたわけですが、これを実際に機能させていくのは距離的な問題もあり、難しい面もありました。いくら北陸エリア内とはいえ、移動には相当の時間を要します。学生が他大学まで行って講義を受けるのは、そう簡単なことではありませんし、非常勤講師を担当する教員にとっても、たった一回の講義のために丸一日つぶれてしまうのでは大変です。
また、もう一つの課題は教育の質的充実です。たとえば教養教育を例に取ると、学部数の多い・少ないに関わらず、学生に必要な教養教育のレベルは変わりません。しかし、学部数の少ない大学で教養教育を充実させようと思うと、非常勤講師を数多く確保しなければならないなど、いろいろな問題が生じます。
こうした課題を解消する方法を模索する中で、有力な手段として浮かび上がってきたのが双方向遠隔授業システムでした。ネットワークを利用した遠隔授業なら距離の問題は解決できますし、各大学が有する人材や研究・教育資源も有効に活用できます。

プロジェクトを進めるにあたっては、どのような点をコンセプトとして掲げられましたか。

田中氏: まず一点目は、本当の意味で「双方向」であるということです。つまり、遠隔授業を受ける側の学生も、送り手側の教員や学生と一体となって授業に参加できるということですね。
単純に授業の内容を流すだけなら、テレビ会議システムのようなものを使う手もあります。ただ、この方法だと、どうしても受け手側がテレビを眺めているような感覚に陥りやすい。また送り手側の教員にとっても、教卓に置いた小型モニタなどでは、受け手側教室との一体感が持てません。今回構築するシステムでは、こうした問題をなくしたいと考えました。
また、もう一点は、システムを利用する先生方に機械操作などの負担を掛けないという点です。今回のシステムは、高度な機能を備えたハイテク機器で構成されていますが、いろいろな機能を駆使することが本来の目的ではありませんからね(笑)。
メカにあまり強くない先生が遠隔授業を行う時にも、普段と同じように何も意識せずに講義ができること。これも今回の重要なポイントでした。

システムの特徴について教えて頂けますか。

田中氏: いま申し上げたようなことを実現するために、今回のシステムには様々な工夫を盛り込んでいます。たとえば、中規模~大規模教室では、教室の後方に大画面スクリーンを2画面設置し、遠隔授業を受ける他大学の教室を映しています。学生が後ろを振り返ると、他大学の学生がスクリーンの中で自分たちと同じように教壇を向いて座っているわけですね。このような環境を用意することで、教室内には一体感が生まれます。
しかも、学生証を利用した出席管理システムとも連携していますので、講義を担当する教員がスクリーンの向こう側を指さして、他大学の生徒に質問することもできます。送り手側の教室にいる生徒も、受け手側の教室にいる生徒も、通常の授業とまったく変わりなく授業が受けられるわけです。
また、受け手側教室の前方には、2つまたは3つのモニタを用意し、教員の映像、黒板の映像、資料映像などを映し出せるようにしています。ちなみに、教員を映すためのカメラは自動追尾式になっていますので、黒板の前を歩き廻ってもモニタから姿が消えてしまう心配はありません。
また、予約を入れておけば自動的にシステムが立ち上がりますので、講義が始まる前に何らかの機械操作をする必要もありません。

ネットワーク的に課題となった点はありましたか。

田中氏: 一番問題になったのは、やはり音声の遅延ですね。実際にテストしてみると、映像と音声が0.5秒ズレるとかなり違和感があります。このままでは授業にならないので、遅延を0.2秒以内に納めることを目標にしました。
そのためにはより高速なネットワーク環境が必要だったので、NIIにSINETの帯域を太くすることを依頼し、快く応じて頂きました。これには大いに感謝しています。

現在はどのような形で遠隔授業が行われているのですか。

田中氏: 平成20年度のカリキュラムでは、前期に4科目、後期に13科目の授業を実施しています。内容は教養教育が中心ですが、専門教育の科目も一部含まれています。
また、別々の大学間だけでなく、同一大学の複数キャンパス間での利用も行われています。
アンケートの結果を見ると、「普段とは異なるメンバーが揃うのが面白い」(教員)、「他大学の学生と交流できて有意義」(学生)、「他大学の興味深い講義を居ながらにして受けられるのは魅力的」(学生)といった好意的な意見も多いですね。
初期には各大学の授業時間帯が違うことから、最終5時限目の開始時間が一番遅い大学に合わせて遠隔授業を行っていました。しかし現在では、各学長の賛同を頂き、金沢大・富山大・福井大の授業時間帯をすべて合わせました。これにより、一時限目からでも遠隔授業が行えるようになっています。

今後はどのような形で遠隔授業を発展させていかれますか。

田中氏: 今後は各大学が蓄積した研究・教育資源を、お互いに共有・活用していく動きがますます活発になることでしょう。今回のシステムは、そのための強力な武器になると考えています。
たとえば、教養教育について言えば、北陸地区のどの国立大学に入学しても同じレベルの授業が受けられ、学生たちが「北陸の国立大学に来て良かった」と満足感を抱けるようになる。そうした環境を、今後も創り上げていきたいですね。
もちろん、そのためにはセキュリティや高速性、信頼性など、ネットワークに関わる課題を解決していく必要もありますので、SINETのサービスとNIIの支援にも大いに期待しています。

ありがとうございました。