SINET3のL1オンデマンドサービスを利用した光結合VLBI観測

国立天文台 水沢VERA観測所 光結合VLBI推進室では、国内のVLBI観測局を光回線で結んだ高感度観測ネットワークを運用しています。
これまでの取り組みと、新たに活用を開始したSINET3 L1オンデマンドサービスの効果について伺いました。

原 哲也氏
自然科学研究機構 国立天文台 水沢VERA観測所 光結合VLBI推進室では、国内のVLBI観測局を光回線で結んだ高感度観測ネットワークを運用しています。
国立天文台 光結合VLBI推進室室長教授 川口 則幸氏と、同研究員 原 哲也氏に、これまでの取り組みと、新たに活用を開始したSINET3 L1オンデマンドサービスの効果について伺いました。
(インタビュー実施:2008年12月11日,更新:2010年1月25日)

まず、光結合VLBI推進室で取り組まれている、光結合VLBIの概要と特徴について教えて頂けますか。

原氏: 光結合VLBIとは、離れた場所にある電波望遠鏡を光回線で接続し、お互いの観測情報を合成することで、より高感度での観測を可能にする方法のことです。
初期のVLBI観測では、データを磁気テープに記録して、相関処理を行う相関局まで輸送するなどしていました。これでは、観測結果が得られるまでに、大変な手間と時間が掛かってしまいます。
その点、光結合VLBI観測では、観測データをすぐにネットワーク経由で伝送し、リアルタイムで処理を行うことができます。また、磁気テープの容量を超えるデータがやりとりできるため、これまでは観測できなかったような天体も観測することができるのです。

現在に至るまでには、いろいろなプロジェクトが実施されたそうですね。

nao01川口氏: そうですね。これまでの歩みをお話すると、まず、通信総合研究所(現:情報通信研究機構)が1990年代に実施した「Key Stone Project」によって、本格的な光結合VLBI時代の幕が開きました。
これと同時期に、国立天文台でも、宇宙科学研究所(現:JAXA)、NTTと共同で、人工衛星「はるか」からのVLBI観測データをリアルタイム相関処理する「OLIVEプロジェクト」を実施しています。
この二つのプロジェクトは1998年に統合され、「GALAXYプロジェクト」として再スタートしました。
さらに、スーパーSINETのサービスが開始されたことに伴い、2002年より「VONUSプロジェクト」が発足。ここでは、まず高エネルギー加速器研究機構経由で、つくば市にある国土地理院の32mアンテナを接続し、その後核融合科学研究所経由で岐阜大学の11mアンテナを接続しました。
SINET3になってからも、山口大学経由で国立天文台の山口32mアンテナを接続しています。
2006年には、「GALAXY」「VONUS」の両ネットワークを合わせた「OCTAVEプロジェクト」へ移行しましたが、これは世界でもトップクラスの光結合VLBIネットワークです。

光結合VLBIでは、回線帯域は広ければ広いほど良いそうですが。

川口氏: はい。VLBI観測では、それぞれの電波望遠鏡が観測したデータの中から、似ている部分を探し出すことで観測を行います。これが相関処理を行うということなのですが、問題はこの似ている部分の割合です。
電波望遠鏡で受信したデータのうち、実際に観測データとして使える部分は0.01%くらい。実はこれでも多い方で、残りの99.99%以上はノイズなのです。
私はよく「砂金採り」をたとえ話に使うのですが、砂金をたくさん採るためには、とにかく大量の砂利を集めてふるいに掛けるしかないですよね。これと同じようなことが、そのまま光結合VLBIにもあてはまります。
観測を行うためには、できるだけ大量の観測データを集めてくる必要があるのです。ちなみに、現在の観測システムでも8Gbpsの帯域を余裕で埋められるくらいの能力がありますが、最近開発した装置では50GHzのサンプリングが可能です。これが実用化されると、理論的には双方向で100Gbpsのデータが流せますので、回線帯域はどれほどあっても困ることはないですね(笑)。

SINET3のL1オンデマンドサービスの利用も開始されましたが、これにはどういう狙いがあったのですか。

川口氏: 国立天文台以外の電波望遠鏡には、それぞれ固有のミッションがありますので、意味のある観測データが取れるのは、我々が時間を指定して使わせてもらっている期間だけです。すべての電波望遠鏡を同じ天体に向けないと、観測は行えませんからね。
しかし、それ以外の観測を行っていない間も、24時間・365日データは流れ続けています。いわば、観測に使えないデータで帯域を占有することになっていたわけです。我々としても、この点を以前から心苦しく思っていました。
しかし、SINET3のL1オンデマンドサービスを利用すれば、我々が観測を行う時だけネットワークリソースを確保することができます。学術ネットワークとしてこうしたサービスを提供するのは、世界でも初めてと伺いましたが、非常にいいアイデアだと思いましたね。

実際にサービスを利用してみた印象はいかがですか。

原氏: 山口32mアンテナ、並びに筑波32mアンテナとの間でL1のパスをつないでいますが、回線を確保する際の予約手続きなども簡単で非常に使いやすいですね。
通常は観測を行う数日前から予約しておきますが、すぐ使いたい場合は当日予約もできるので便利です。ちょうど今日も、数日後に行う観測のための予約を入れたところです。

他の大学や機関と予約が重なったりするケースもあるのですか。

原氏: 現在は試行期間中なのでそうでもないですが、今後正式にサービスが開始された際には、そういうこともあるでしょうね。もっとも、我々の場合は土日に観測を行うことも多いので、他のユーザーに比べて競合の心配は少ないかも知れません。
予約の希望が複数あった場合は、L1オンデマンドサービス側で抽選を行い、「当選」「落選」という表示が出るようになっていますが、まだあまり落選したことはありません(笑)。ちなみに、今回の予約でも土日を含めた4日間を確保しており、その間に9時~16時までの観測を2セット実施する予定です。

接続先は今後も増えていく予定なのですか。

原氏: 2009年に北海道大学の札幌キャンパス経由で北大・苫小牧11mアンテナが接続されたほか、国立天文台の日立32m、高荻32mアンテナとも接続する予定です。
長時間・高感度の観測が行えるようになったことで、今までにない新しい発見が生まれる可能性も高まりました。こうした研究が行えるのも、ネットワークがあればこそです。ぜひいい成果を挙げて、皆さんにもご紹介できればと思いますね。

最後にSINETへの期待を伺えますか。

川口氏: 我々はいま日本中の電波望遠鏡をつなぐ取り組みを行っているわけですが、国内だけでなく海外にもたくさんの電波望遠鏡があります。将来的には、こうした世界中の電波望遠鏡を光ファイバーでつないでいきたい。
もちろん、こうしたグローバルな観測ネットワークを実現する上では、SINETの支援が欠かせませんので、今後とも頑張ってもらいたいと思います。

ありがとうございました。