核融合原型炉に向けた国内研究情報基盤構築におけるSINET6の役割

左から石井氏、宮戸氏、徳永氏

量子科学技術研究開発機構(以下、QST)は、核融合エネルギー研究の分野で全国に研究施設を持っており、またフランスで構築中の国際核融合実験炉ITERプロジェクトに国内実施機関として参画しています。そのQST概要とSINET6が果たした役割についてQST六ヶ所フュージョンエネルギー研究所核融合炉システム研究開発部 石井部長、同BA計画調整グループ 宮戸グループリーダー、同 徳永主幹技術員にお話を伺いました。(インタビュー実施:2025年11月12日)

核融合原型炉の実現を目指すQSTの役割について教えてください。

QSTの概要を説明する石井氏

石井氏:QSTは2016年に旧放射線医学研究所と日本原子力研究開発機構(JAEA)の一部が合併して設立された研究機関です。北は青森県六ヶ所村から南は兵庫県播磨地区まで、全国に多くの研究拠点を持っています。また、フランス・サン・ポール・レ・デュランスで建設中のITER(国際熱核融合実験炉)にも現地事務所があります。

QSTの研究分野は多岐にわたり、高崎研究所と関西研究所では粒子線やレーザーを使った研究、量子生命科学研究所では量子センシング技術開発、量子医科学研究所では重粒子線治療の研究、QST病院では特殊な放射線医療、放射線医学研究所では放射線の人体への影響研究などが行われています。

また、核融合エネルギーの早期実現に向けた研究開発も進めています。QST那珂研究所では「JT-60SA」を用いた実験が展開されています。これらのプロジェクトの次なるステップが、発電実証を担う「核融合原型炉」の建設です。

QST六ヶ所フュージョンエネルギー研究所(以下、六ヶ所研究所)は、この原型炉開発に向けた研究基盤の構築において中心的な役割を担っています。

核融合とはどのようなエネルギーなのでしょうか。

D-T核融合反応(提供:QST)

石井氏:核融合は重水素と三重水素を融合させることで生じるエネルギーを利用する技術です。太陽の輝きと同じ原理を地上で再現し、二酸化炭素を排出せずに膨大なエネルギーを取り出す。この「地上の太陽」の実現は、人類のエネルギー問題を根本から解決する可能性を秘めています。核融合反応ではヘリウムと中性子が生成され、核分裂と異なり高レベル放射性廃棄物は発生しません。核融合炉の壁は中性子によって放射化されますが、それは低レベル放射性廃棄物であり、100年程度の保管で放射能が十分に減衰します。

核融合のメリットとして、重水素は海水中に豊富に存在し、三重水素の原料となるリチウムも海水から取得可能であり、地域的な偏りがないこと、万が一の事態でも核融合反応が瞬時に停⽌すること、エネルギー効率が高いことなどが挙げられます。また、核融合炉の開発には化学、工学、IT技術など幅広い分野の技術が必要であり、他分野への技術的波及効果も大きいと考えています。

現時点までの成果を教えてください。

石井氏:QSTで行われている様々な技術開発の中で特に他分野への波及効果の大きい注目すべき成果として、海水からリチウムを分離する膜の開発があります。この技術は既に特許を取得し、QST認定のベンチャー企業によって商品化が進められています。また、常温常圧でリチウム鉱石を溶かす技術も開発されており、従来の高温高圧(2,000度程度)の方法と比べてCO2排出量を80%削減でき、工場の規模も10分の1程度に抑えられます。この技術もベンチャー企業としてスピンアウトしています。リチウム鉱石を常温常圧で溶かす技術によって、日本独自のサプライチェーン構築の可能性があるため、経済安全保障の観点からも非常に重要と考えています。

これ以外の要素技術も含め、将来的には核融合炉を中心に様々な産業が展開できる可能性もあります。

ITER遠隔実験センターのプロジェクト概要についてお伺いします。

ITER遠隔実験センタープロジェクト概要(提供:QST)

徳永氏:このプロジェクトには大きく分けて二つの目的があります。一つ目は、日本からITERの実験に参加するための環境整備です。ITER(国際核融合実験炉)はフランス・サン・ポール・レ・デュランスにあるため、ITER参加極の中で最も地理的に離れた日本の研究者が実験に現地で参加するのは容易ではありません。そこで、遠隔で効果的に実験に参加できる環境の技術開発と整備を進めています。実験主任は現地にいる必要があると思いますが、その他の研究者は遠隔からリアルタイムでデータを見ながら実験に参加できる仕組みが構築されています。二つ目は、原型炉開発に向けて最大限活用するために、ITERで生成されるデータを日本に転送する技術開発です。ITER実験が始まった暁には、年間200PB、もしくは400PBほどのデータが生成される見通しです。そのデータを六ヶ所研究所に転送して保管し、解析研究に供する計画となっています。

核融合の実現には、膨大なデータを解析する情報基盤が必要不可欠です。六ヶ所研究所において、それを支えているのが、SINETの広帯域・低遅延・セキュアなネットワークです。

ネットワーク構成についても教えてください。

ネットワーク構成図(提供:QST)

徳永氏:QST六ヶ所研究所はSINET6上北DCと100Gbps接続しています。国内外の主要拠点とはSINETのL2VPNサービスで接続しています。ITERデータディストリビューションセンター(IDDC)からはSINETの国際回線を経て、六ヶ所研究所の「大規模ストレージ」まで直結されています。また、六ヶ所研究所にいる研究者も、「ITER遠隔実験参加環境」からITER主制御室オペレータ用インタフェースと同等のITER内の情報端末(OPI)へアクセスして装置の状況を把握することが可能となっています。

国内においても同様です。QST那珂研究所(茨城県那珂市)、核融合科学研究所(岐阜県土岐市)等とQST六ヶ所研究所を結ぶSINETのネットワークは、各拠点にある実験DB間で複製を行い、また遠隔実験参加環境により研究者が物理的な距離を意識することなく、一つの巨大な仮想研究所のように機能する基盤を提供しています。

また、ITER実験が始まると大容量のデータ転送が必要となることから、ITERと六ヶ所研究所の間でデータ転送の実証実験を行っています。 この実験では、SINETが提供する長距離高速ファイル転送を可能にする「MMCFTP」とSINETの国際ネットワーク連携を活用し、100Gbpsの通信帯域をほぼフルに活用して、データを転送できることを確認しています。
参考)https://www.nii.ac.jp/news/2025/1111.html

今後の展望についてもお教えください。

核融合科学研究所と共同運用するスパコン「Plasma Simulator」

徳永氏:QSTは、「核融合研究情報基盤(FIC:Fusion Informatics Center(仮))」構想を推進しています。原型炉設計研究は、全国の大学・研究機関と企業が参画する「原型炉設計合同特別チーム」が中心となって展開しています。FIC はこのオールジャパンの産学連携コラボレーションの基盤として下記を目指しています。

実験研究基盤と理論シミュレーション研究基盤の融合:那珂のJT-60SA実験装置と六ヶ所のスパコンなどのQSTの研究基盤を融合し、デジタルツインによる制御技術開発の推進や理論モデルとデータ駆動型モデルを組み合わせるハイブリッドモデリング研究を推進。

プロジェクト型共同開発:物理的に離れた場所にいる研究者・技術者が、共通のクラウド基盤上でシミュレーションコードや解析コード等を共同開発する体制の構築。

データフォーマット(インタフェース定義)の標準化:異なる装置やコードから出力されるデータを共通言語で語れるようにし、AI(人工知能)解析などへの活用を容易にする。

知見の資産化:論文として発表されない試行錯誤の過程や、設計のノウハウをデジタルデータとして蓄積。

このFICの強力な計算エンジンとなるのが2025年7月に運用開始したQSTと核融合科学研究所(NIFS)で共同運用するスパコン「Plasma Simulator」です。原型炉設計のための大規模シミュレーションだけでなく、ITER、LHD等のデータ解析も担います。ここでもSINETの安定した通信基盤が今後ますます重要になってきます。

また、研究開発における知識継承も重要だと考えています。核融合エネルギー分野は数十年にも及びます。研究者の交代や時間の経過によって知見が失われていく問題もあります。特に、日々の作業や判断の根拠、計算の条件などの情報が適切に記録・保存されないと、後の研究開発に支障をきたす可能性があります。この問題に対処するため、AIを活用した知識管理システムを構築するなど、研究者の負担を増やさずに知見を蓄積・活用できる仕組みも必要になってくると思います。

ありがとうございました。