ハイビジョン双方向遠隔授業による医療福祉情報分野の人材育成とIPv6活用の取り組み

横浜国立大学 情報基盤センターでは、横浜市立大学との医工連携プロジェクトの一環として、横浜国立大学大学院環境情報研究院・横浜市立大学大学院医学研究科間を結んでハイビジョン双方向遠隔授業を実施しています。
このプロジェクトの概要と成果、並びに現在推進中のIPv6活用について、環境情報研究院教授 有澤 博氏と情報基盤センター准教授 徐 浩源氏にお話を伺いました。

徐 浩源氏
徐 浩源氏
横浜国立大学 情報基盤センターでは、横浜市立大学との医工連携プロジェクトの一環として、横浜国立大学大学院環境情報研究院・横浜市立大学大学院医学研究科間を結んでハイビジョン双方向遠隔授業を実施しています。
このプロジェクトの概要と成果、並びに現在推進中のIPv6活用について、環境情報研究院教授 有澤 博氏と情報基盤センター准教授 徐 浩源氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2008年12月11日)

まず、横浜国立大学 情報基盤センターの活動内容について教えて頂けますか。

徐氏: 当センターは、2007年4月に、学内のIT環境整備と教育研究活動の支援・推進を目的として、従来の総合情報処理センターから改組されました。
具体的な活動としては、キャンパス情報ネットワークの管理運用、並びに情報セキュリティ強化などの業務を、「情報ネットワーク部門」が担当。また、約600台の教育用PC、全学メールシステムの維持管理や情報処理関連教育を、「教育支援システム部門」が担当しています。
さらに、この二部門に加えて、複数の研究プロジェクト部門を設けている点が、当センターの大きな特徴と言えます。ここでは情報基盤の高度化に裨益する先進的なプロジェクトを学内から公募し、選考を経て実施しています。

横浜市大との医工連携プロジェクトに取り組まれた経緯を伺えますか。

有澤 博氏
有澤 博氏

有澤氏: 最近では医療や看護、福祉、介護などの現場においても、ITによる支援が欠かせなくなっています。本学の環境情報研究院としても、こうした領域で活躍できる高度な専門性を備えた人材を育成することが重要な課題です。
その取り組みの一つとして、文科省の事業である「大学院教育改革支援プログラム」(大学院GP)に応募し、平成19年度より「医療・福祉分野で活躍できる情報系人材の育成プログラム」をスタートさせました。
ここではいろいろな活動を行っていますが、その一つが医療・福祉現場で実際に役に立つソフトウェアを、学生自身がリーダーシップを取って開発する「SIPプロジェクト」です。
たとえば、ベテランの介護福祉士の方が介護を行う際の身体の動き方をコンピュータで解析し、そのノウハウを明らかにするプログラムを開発するといったことを行っています。
ちなみに、SIPプロジェクトを含む所定の教育プログラムを修めた学生には、成績証明書に「副専攻プログラムとして医療福祉情報を修めた」と記載されますので、医療機器関連メーカーへ就職する際などの大きな材料にもなっています。
また、大学院GPにおけるもう一つの重要な取り組みが、横浜市大医学部との双方向遠隔授業です。 医療・福祉分野で活躍するためには、当然ながら医学についての基礎知識が不可欠です。しかし、横浜市大医学部の先生方もお忙しいので、本学に定期的に来ていただいて授業を行うのは困難です。そこで、ネットワークを利用した遠隔授業に目を付けたのです。

双方向遠隔授業を実現する上で、ポイントとなった点などはありましたか。

有澤氏: 一つはハイビジョン映像でのリアルタイム中継を行うということです。
一般的なテレビ会議システムでは、画質が不十分で資料や映像などがはっきり読み取れません。医療情報系の授業において、このことは大きな問題になります。また、録画した映像を再生するだけでは、授業を提供する側も受ける側も、臨場感や緊張感が薄れてしまいます。
こうした問題を解消するために、双方向遠隔授業用のハイビジョン中継システムを新たに開発しました。これなら、先生方も自分の教室と同時に受信側の教室の様子も見ながら授業を進められますし、受信側の学生が先生に質問することもできます。ハイビジョンは黒板の小さな文字や画像、資料などもクリアに見られますので、非常に評判はいいですね。
また、運用コストの嵩む専用回線などではなく、SINETノード経由で通常のインターネット回線を利用するところにもこだわりました。

現在はどのような形で授業を実施されているのですか

有澤氏: 「臨床医学概論」、「医科学概論」、「人体構造生理学」など医学系の授業を横浜市大から提供して頂いているほか、本学からも「先端的画像医学」など情報系の授業を提供しています。
またプロジェクト開始当初は、二校間で始まった取り組みですが、最近では慶応大学にも参加して頂いて「看護福祉工学」の授業も行っています。今後もいろいろな大学と連携して、双方向遠隔授業の幅を拡げていきたいですね。
また、授業の内容は貴重な教育資産でもありますから、ハイビジョン画質のままで、コンテンツ自動作成システムの開発なども推進中です。

今後に向けた新たな計画なども始まっているのですか。

有澤氏: 次のステップとして現在検討を進めているのが、中国の複数の大学との間での国際双方向遠隔授業です。
現在様々な形で日本への留学生を増やすための活動も行われていますが、現実問題として多数の中国の学生が日本に来るのはそう簡単ではありません。しかもその一方で、中国には日本語強化クラスを設けている大学があり、一つの学部に日本語を学ぶ学生が何百人もいたりします。
その点、今回のシステムを利用すれば、こうした中国の学生の皆さんに、ネットワーク経由で日本語による授業を日本の大学キャンパスから提供することができます。幸い中国にも、SINETと同じような学術情報ネットワーク「Cernet」がありますので、国際双方向遠隔授業をぜひ実現させたいと考えています。

IPv6関連の取り組みについてもお話を伺いたいのですが、まずIPv6の導入を行った背景を教えて頂けますか。

徐氏: 冒頭でも述べた通り、情報基盤センターには、教育・研究開発の基盤となる環境を整備する使命があります。我々としても、最先端の情報インフラを学内にできるだけ早く提供したいと考えていますので、IPv6の導入・活用は大きなテーマでした。
今回の導入の直接のきっかけとなったのは、2007年12月にSINET3でIPv6ネイティブルーティングのサービスが開始されたことです。トンネリングなどの方法を利用する手もありますが、大学レベルではコストも含めて対応が大変な面があります。それだけにSINETのIPv6ネイティブ対応は非常に魅力的でしたね。
ちょうど本学でも、基幹ネットワーク設備の更新時期を迎えていましたので、デュアルスタック対応のネットワーク機器を購入して、IPv6の全面的な導入を図りました。
ユーザーに対する規約・規則の整備なども終わり、2008年12月1日より学内へのサービスを開始しています。

IPv6の具体的な活用についてはいかがですか。

徐氏: サービス提供を開始したばかりということもあり、学内での本格的な活用はこれからという段階です。
もっとも、既にいくつか有力な用途が挙がっており、有澤先生からお話のあった中国との遠隔講義もその一つです。中国の大学でもIPv6の導入が進んでおり、グローバルなIPv6ルーティングなども可能な体制が整っています。帯域も十分に空いていますので、国際的なハイビジョン映像伝送にIPv6を活用できればと考えています。SINETにもサポートしてもらえるとありがたいですね。

最後にSINETへの期待を伺えますか

有澤氏: 双方向遠隔講義システムを構築する際に、ネットワークのテストを行ったのですが、SINET3のネットワーク品質は非常に優れていると感じました。高性能・高信頼なネットワーク基盤を提供するという部分では、大いに評価していますので、今後は研究・開発の分野でも踏み込んだ支援をしてもらえれば嬉しいですね。
また、SINET傘下にはネットワーク事情の良くない大学もまだまだ数多く存在しますので、こうした大学へのさらなる支援もお願いできればと思います。

ありがとうございました。