特別支援教育における双方向遠隔授業

愛媛大学 教育学部 長尾研究室では、特別支援教育における双方向遠隔授業の可能性に着目。鳥取大学 地域教育学部 小枝研究室との間で実際に授業を行うなど、様々な取り組みを展開しています。
その狙いについて、お話を伺いました。

長尾 秀夫氏
長尾 秀夫氏
愛媛大学 教育学部 長尾研究室では、特別支援教育における双方向遠隔授業の可能性に着目。鳥取大学 地域教育学部 小枝研究室との間で実際に授業を行うなど、様々な取り組みを展開しています。
その狙いについて、愛媛大学 教育学部教授 長尾 秀夫氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2008年10月3日)

長尾先生が特別支援教育に関わるようになった経緯をお聞かせ頂けますか。

長尾氏: 私はもともと小児科の医師で、小児神経学、つまり脳や筋肉などについての研究を専門としています。今でも診療は続けており、患者さんやご家族の方々から相談を受ける機会も少なくありません。
そうした中で、常々強く感じていたのが、障害を持つ子どもたちの教育環境や生活環境をもっと改善していく必要があるということでした。そこで20年ほど前に教育学部に移り、当時は障害児教育と呼ばれていた特別支援教育に関わるようになりました。
特別支援教育には、教育学、心理学、医学の3分野があり、私はこの中の医学分野を担当しています。 私が教育学部に移った当時は、全国でも教育学部の医師は精神科がほとんどで、小児科の医師は1~2名ほどでした。しかし、最近ではこの分野にも小児科の医師がだんだん増えています。
発達障害を持つ子どもには医学的な支援が欠かせませんから、我々としてもこの分野における教育方法の確立と、教育方法を身につけた教員の育成に力を注いでいます。

遠隔授業についても、以前からいろいろな取り組みを行われているそうですね。

長尾氏: ええ。愛媛県下には子ども療育センターや特別支援学校など、特別支援教育の拠点が数カ所あり、本学からも特別教育支援コーディネーター専修の大学院生などを小中学校に派遣しています。その指導や教育相談のために、平成18年度よりテレビ会議システムを導入・活用しています。
もっとも、このシステムでは、拠点側に導入した端末が小型モニタ内蔵機だったため、数十人規模で双方向授業を行うにはちょっと厳しい面がありました。
また画面の解像度もあまり高くなかったので、平成20年からはDVビデオカメラを利用する遠隔授業配信システム(FA・システムエンジニアリング社製「DV-CUBE」)も新たに導入。これにより、プロジェクタの利用が可能になり、カメラで撮影したテキストの文章が遠隔地側で読めるほど解像度も向上しました。
遠隔授業については、教育学部全体としても高い期待を掛けています。というのも、今年から教員免許更新のための授業が試行されますが、その対象となる先生方の数は愛媛県下で約3,000名にも上ります。
同じ内容の授業を何度も行うのは非効率ですし、先生方にとっても講習会場までの移動が大変です。その点、県内をエリア分けして遠隔授業を実施すれば、こうした問題もある程度解消できると考えています。

鳥取大学 小枝研究室との遠隔双方向授業については、どのようなきっかけではじまったのですか。

長尾氏: これは特別支援教育に限ったことではないと思いますが、いろいろな先生方の話を聞くことが、学生にとって非常に有意義なんですね。たまたま、鳥取大学 地域学部 地域教育学科の小枝 達也教授とは、同じ小児神経科を専門としており、研究班でも親しくさせて頂いています。
小枝先生はとても優秀な方で、学生の指導にも熱心に取り組んでおられますので、2007年末の会議でご一緒した際にぜひ一度遠隔授業をとお願いしたのです。幸い先方からもご快諾を頂き、2008年7月に第一回の遠隔双方向授業を実施しました。

この時の授業の内容、並びに利用した環境について教えて頂けますか。

長尾氏: まずは鳥取大側から、今回の授業のテーマである「発達障害学生の支援」についての取り組みをスライドで紹介して頂き、その後鳥取大の学生が相互に質疑応答、次に愛媛大からの質疑応答を行いました。
同じように愛媛大側でも取り組みを紹介し、その後愛媛大の学生が相互に質疑応答、次に鳥取大からの質疑応答という流れで授業を進めました。 システム的には、県内の遠隔授業で実績のあるDV-CUBEを鳥取大に設置し、愛媛大-鳥取大間を結ぶネットワークとしてSINETのL2-VPNサービスを利用しました。
今回の授業には、本学の総合情報メディアセンターと鳥取大の総合メディア基盤センター、並びに本学 工学部の都筑 伸二教授のご協力も仰いだのですが、こうした専門家の方々から「国立大学間を結ぶ遠隔授業ならSINETを利用するのが良い」というアドバイスを頂きました。実際、ネットワーク的には、速度・安定性ともまったく問題ありませんでしたね。リアルタイムに会話できることを重視していましたので、これには非常に助かりました。
ちなみに、テストの時に愛媛大・鳥取大間で「じゃんけん」をやってみたのですが、遅延もなくちゃんと勝負できましたよ(笑)。

授業についての評判は如何でしたか。

長尾氏: 当日参加した院生と学部生にアンケートを取ったのですが、他大学の先生の話が聞けたり、他大学の学生とリアルタイムのディスカッションができて面白かったという意見が多かったですね。同じ分野の研究をしていても、地域や大学によって異なる考え方や視点があることに、あらためて気づいたようです。
また、基本的に討論や質疑応答を伴う「双方向」の授業ですから、通常の授業よりも緊張感があって良かったとの意見もありました。やはり、一方的に講義を聞くだけでは、受け手側としても集中力を保つのが難しい。遠隔授業を活発化するには、双方向であることが重要と考えています。そうした面でも、今回の授業は成功したと言えると思います。

遠隔双方向授業は今後も積極的に推進していかれるのですか。

長尾氏: そうですね。今回のように距離が比較的近い中国・四国地方間の授業でさえ、学生にとって新鮮な体験だったわけですから、もっと遠隔地の大学と授業を行えば、また新たな発見があると思います。日頃なかなかお会いする機会のない遠方の先生方から先端的なお話が聞ければ、学生にとってもいい刺激になるでしょう。
他大学の学生との遠隔ディスカッションについても、同様のことが言えます。2大学間だけでなく、3~5大学を結んだ双方向授業もやってみたいですね。
私個人としては、双方向遠隔授業によって各大学間の交流や単位互換の動きが強まっていけば、日本の特別支援教育の授業全体の底上げにもつながっていくと期待しています。将来的には、中国や韓国など、海外の大学とも遠隔双方向授業ができるようになればいいですね。
もちろん、国内外の大学との連携を深めていく上では、ネットワークの存在が欠かせませんから、SINETのサービスにも大いに期待しています。

ありがとうございました。