スパコン「地球シミュレータ」とSINETとの連携

海洋研究開発機構では、世界でもトップレベルの性能を誇るスパコン「地球シミュレータ」を利用して、様々な研究や事業を展開しています。
その概要とSINETが果たす役割について、お話を伺いました。

直井 純氏
直井 純氏

独立行政法人 海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)では、世界でもトップレベルの性能を誇るスパコン「地球シミュレータ」を利用して、様々な研究や事業を展開しています。
その概要とSINETが果たす役割について、JAMSTEC 地球シミュレータセンター 情報システム部 基盤システムグループサブリーダー 直井 純氏、同サブリーダー 大倉 悟氏、同技術副主任 堀内 幹夫氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施: 2010年3月15日)

まずJAMSTEC全体の活動について教えて頂けますか。

直井氏: JAMSTECは、我が国における海洋科学技術の総合的な研究機関であり、海洋を中心とした地球システムの解明や、地球環境保全・防災・資源確保などの諸問題への貢献を目指しています。 具体的な研究分野としては、温暖化に代表される地球環境変動の研究、地震・津波などの地球内部ダイナミクスの研究、深海や地核内といった極限環境に棲む生物の研究の3点が挙げられます。
また、その他に、これらの研究を支援するための基盤技術開発も手がけています。たとえば、地球深部探査船「ちきゅう」や海洋地球研究船「みらい」、有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機「かいこう7000II」など、各種船舶・潜水船・探査機の建造・運用も行っています。

研究拠点も全国に展開されていますね。

直井氏: そうですね。横須賀の本部を中心に、青森にはむつ研究所、高知には高知コア研究所、沖縄には国際海洋環境情報センター(GODAC)を置いており、東京とワシントンにも事務所を構えています。
そうした拠点の中でも、ここ横浜研究所は、シミュレーション研究の中核拠点であると同時に、JAMSTECのITインフラを司る役割を担っています。研究所内には、後述する地球シミュレータや各種の業務システムが設置されており、その開発・運用を我々情報システム部が担当しています。

ネットワーク環境についてはどのようになっているのですか。

堀内 幹夫氏
堀内 幹夫氏

堀内氏: 各地の拠点を広域LANサービスで結ぶと同時に、外部の機関や研究所とはSINET3を利用して接続を行っています。 今やネットワークは、研究や日々の業務を支える生命線です。我々としても、障害で停止したりすることのないよう、安定運用にはかなり気を遣っていますね。
また、JAMSTECには、地球シミュレータのように外部へのサービス提供を行っているコンピュータも存在しますし、業務で取り扱うデータも年々大容量化しています。このため、高速化への要望も年々強くなっています。 2010年2月には、GODACとの接続を広域LANサービスからSINET3のL2-VPNに切り替えました。

その狙いはどのような点にあったのですか。

堀内氏: 大容量のマルチメディアデータを効率的に活用するためです。GODACでは、研究の過程で得られた貴重な深海映像などをデジタルコンテンツ化し、インターネットを通じて広く一般に公開しています。この元になるデータは横浜研究所に蓄積されていますので、大容量の映像データを沖縄へ高速転送するためのネットワークが必要なのです。
以前の環境では帯域が10Mbpsだったのですが、これをSINETに切り替えることで40Mbpsに拡張できました。今後も順次増速したいと考えていますが、マルチメディア系のサービスを充実させていくためには、やはりこうした高速なネットワーク環境が欠かせませんね。

JAMSTECと言えば「地球シミュレータ」も有名ですが、こちらの概要についても教えて下さい。

大倉 悟氏
大倉 悟氏

大倉氏: 初代地球シミュレータは、1990年代後半に、気象計算、具体的には大気大循環モデルの計算で当時のスパコンの1000倍の性能を実現すべく開発されました。2002年3月に運用を開始した際には、スパコンの性能を測る指標として知られるLINPACKベンチマークで第一位を獲得し、世界最速のスパコンとして大きな話題を呼びました。
この初代地球シミュレータは、その後7年間にわたり研究に活用されてきましたが、環境面や運用面からもそろそろ更新が求められてきたため、2009年3月に二代目となる現在の地球シミュレータ(ES2)に交代しました。 ベクトル型スパコン「SX-9/E」160ノードで構成され、131TFLOPSの演算性能を叩き出す地球シミュレータ(ES2)は、運用開始当時国内では最速、また世界でも依然としてトップクラスの性能を誇るスパコンです。

現在はどのような形で運用されているのですか。

大倉氏: 地球シミュレータの計算機資源は、大きく分けて「一般公募枠」「特定プロジェクト枠」「機構戦略枠」の3つの用途に割り当てられています。
まず一般公募枠では、地球科学分野やそれ以外の研究分野から応募を募り、先進的・独創的と認められた研究に対して資源を提供しています。2009年度は地球科学分野で16件、それ以外の分野で9件の利用がありました。
次に二番目の特定プロジェクト枠とは、国からの委託や補助で進められるプログラム向けに地球シミュレータを提供するものです。ここでも21世紀気候変動予測革新プログラムなど、様々な先端研究に地球シミュレータが利用されています。
そして最後の機構戦略枠は、JAMSTEC自身の研究プロジェクトに地球シミュレータを利用するものです。 ちなみに、計算機資源の全体的な割当比率は、一般公募枠が40%、特定プロジェクト枠と機構戦略枠がそれぞれ30%ずつとなっています。また、2010年1月時点での登録者数は、利用機関数で113機関、研究者数で569名となっています。

民間企業が研究や製品開発のために地球シミュレータを利用することもできるそうですが。

大倉氏: ええ。これは「地球シミュレータ産業戦略利用プログラム」と呼ばれる制度で、毎年公募を行っています。2009年度の公募では、流体、ナノ、バイオ、環境の4つの分野を設定しました。
もっとも、このプログラムでは利用成果を公開することが原則ですから、製品開発などには馴染まない面もあります。そこで、これとは別に、成果を非公開にできる「成果専有型有償利用制度」なども用意しています。

地球シミュレータクラスのスパコンになると、シミュレーションで取り扱うデータ量も相当膨大なのでしょうね。

大倉氏: 一つの研究プロジェクトだけでも数百TB級のデータが発生しますので、現在はユーザーディスクとして1.5PBの容量を確保しています。さすがに、これくらいのデータ量になると、研究者の方も気軽に自分の大学や機関に転送するわけにはいきません。
そこで現在は、シミュレーションの計算結果をネットワーク経由で参照する使い方が主流になっています。もっとも、今後ネットワークがさらに進化すれば、こうした使い方も変わってくるかもしれません。そういう意味では、SINETに掛ける期待も大きいですね。

最後に今後の抱負をお聞かせ下さい。

直井氏: JAMSTECでは今までのお話以外にも、東大・地震研と地震研究のためのネットワークを構築したり、海上の船舶からJAXAの衛星を経由して横浜研究所へ接続するなど、様々な取り組みを行っています。
情報システム部門としても、ITインフラの整備拡充を図ることで、こうした先端研究をしっかりと支援していきたい。また、それと並行して、ネットワークの新たな活用研究も進めていきたいと思っているので、より高速なSINET4に期待しています。

ありがとうございました。