銀河系の3次元立体地図を作る「VERA」プロジェクト

鹿児島大学 理学部では、国立天文台と共同で、銀河系の3次元立体地図を作る「VERA」プロジェクトを推進中です。
今回は、VERAにおけるSINET3の活用について、お話を伺いました。

中川 亜紀治氏
中川 亜紀治氏

鹿児島大学 理学部では、国立天文台と共同で、銀河系の3次元立体地図を作る「VERA」プロジェクトを推進中です。
今回は、VERAにおけるSINET3の活用について、鹿児島大学大学院 理工学研究科 物理・宇宙専攻助教 中川 亜紀治氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施: 2010年3月9日)

まず、中川先生の所属する宇宙物理学グループの活動について伺えますか。

中川氏: 鹿児島大学 理学部では、天文や物理に関する様々な研究が行われていますが、我々のグループでは、入来に設置された口径1mの光赤外線望遠鏡、国立天文台・VERA入来局20m電波望遠鏡、また錦江湾公園に設置された6m電波望遠鏡の3つの観測装置を利用して、主に銀河系を対象とした観測や研究を行っています。

先生はVLBIによる位置天文学がご専門ですが、その面白さはどういう点にありますか。

中川氏: 位置天文学は天体の位置や運動、また天体までの距離を測ることをテーマとしていますが、実は天文学は意外と誤差の大きい学問でもあります。
たとえば「ある星までの距離の誤差は±30%」なんてことが研究では日常的に語られたりします。30%もの距離の誤差なんて、日常生活では考えられませんよね(笑)。しかし、天文学では、何に付けてもこうした大きな誤差が少なくありません。
距離についても、いろいろな求め方はありますが、その正確さとなるとやや怪しい面がありました。その点、現代の位置天文学では、複数の電波望遠鏡を組み合わせたVLBIの手法を用いることで、今まで数十パーセントだった誤差を、数パーセント以下にまで縮められるようになりました。
星の位置を正確に求められるということは、天文学を精密科学のレベルにまで引き上げていくことにつながります。また、天体の動きを精密に観測することで、昨今話題を呼んでいる「ダークマター」の解明にも繋がります。
さらに、多くの巨大電波望遠鏡を利用する「ビッグ・サイエンス」である点も、VLBIの面白さですね。

その取り組みの一つが「VERA」ということですが、このプロジェクトの目的について教えて下さい。

中川氏: 鹿児島大と国立天文台が協力して推進しているVERAは、我々の住む天の川銀河の立体地図を作ることを目的としています。
おそらく皆さんも、銀河系のイラストやCGなどをご覧になったことがあると思います。イメージとしてはああいう感じですが、単なる想像図ではなく、実際に観測した距離に基づいて作成される地図である点が大きく異なります。
また、静的な地図ではなく、天体の運動も伴った動的な地図である点も特徴の一つです。

遠くの天体までの距離をどのようにして測っているのですか。

中川氏: VERAでは、三角測量と年周視差を利用した観測を行っています。三角測量は、三角形の低辺の長さと頂角の大きさから目的物までの距離を測る方法ですが、VERAではこの底辺の長さを地球~太陽間の距離を元に算出します。
次は両端の角度ですが、地球は太陽の廻りを公転しているため、同じ星でも春に見るのと秋に見るのとでは位置が少し違ってきます。この角度の差、つまり年周視差を観測することで、頂角も割り出すことができます。あとは、両者を組み合わせることで、目的の天体までの距離を正確に計算できるというわけです。
ただし、このように原理的にはシンプルでも、実際に行うのはそう簡単なことではありません。何しろ目的の天体は非常に遠い場所にありますから、三角形の形も途方もなく細長いものになります。
具体的には銀河中心の場合、年周視差は約1/3600万分の1度というかなり小さな数値になります。 こうした精密観測を行う上で、大いに役立ってくれるのがVLBIです。VERAでは入来局、岩手県の水沢局、石垣島局、小笠原局の4つのアンテナを組み合わせることで直径2300kmの電波望遠鏡と同等の性能を実現しており、更に電波の波としての特性を利用することで3億6000万分の1度の精度で計測が行えます。
また、VERAのアンテナ群は世界で唯一の2ビーム望遠鏡であり、VLBI観測で問題となる大気揺らぎの影響も排除できます。

どのような天体が観測の対象となるのですか。

中川氏: 生まれたばかりの星や年老いた星の中には、非常に強い電波を放射している天体があります。VERAが観測するのは、こうした「メーザー源」と呼ばれる天体です。
メーザー源にもいくつかの種類がありますが、その中でも、特に星の廻りに漂う水分子から電波を放射している「水メーザー」などを対象としています。
ちなみに、VERAでは、銀河系の立体地図を作るために、1000個程度のメーザー源を観測する予定です。

ネットワークはどのような形で活用されているのですか。

中川氏: 大きく二つの用途があります。まず一つ目は、観測局を接続して運用するための用途、そしてもう一つは、研究者や学生が観測データにアクセスして解析を行うための用途です。
我々のグループでは2009年からSINET3を導入し、鹿児島大と東京・三鷹の国立天文台間をL2-VPNで接続しています。

SINET3を導入された理由をお聞かせ下さい。

中川氏: VERAでは、各観測局の観測データを一度磁気テープに記録し、国立天文台へ輸送して相関処理を行っています。
その後、研究者が利用できる形のデータが作成されるわけですが、以前はこれをDVDに焼いて送付してもらっていました。こうしたプロセスだとどうしても余分なタイムラグが発生してしまいますし、研究の効率も上がりません。
もちろん、国立天文台にあるプログラムやデータを直接利用できればいいのですが、以前はネットワークの帯域が狭く、それができなかったのです。何かいい手はないかと思っていたところ、国立天文台の川口先生からSINETの利用を勧めて頂きました。

SINET3を導入した感想はいかがですか。

中川氏: 研究の効率が格段に上がりましたね。大容量の画像データも素早く表示されますし、データのやりとりも簡単に行えます。我々研究者にとって、ストレスなくデータを活用できるというのは非常に大きなメリットです。
また、国立天文台と入来局間の接続を、フレームリレー網からSINET3+商用光回線に変更することで、観測局の運用がより容易になるなどのメリットも生まれました。

今後の展開についてもお伺いしたいのですが。

中川氏: 現在我々が大きな課題として掲げているのが、ネットワークを利用したリアルタイム相関処理の実現です。
VERAの観測データは一観測局あたり4.2TBにも達しますので、先にも述べた通り磁気テープの輸送に頼らざるを得ないのが現状です。しかし、これをネットワークで送ることができれば、研究効率をさらに高めることができます。
この分野でも海外にライバルが数多く居ますから、日本の国際競争力を向上させる上でも大きな意義があります。そういう意味では、SINETの今後に掛ける期待も非常に大きいですね。
また、私個人としては、VERAを利用した研究テーマである「宇宙の距離を測る新しいもの差し作り」に力を入れ、鹿児島から最新の天文学を発信していきたいと思います。

ありがとうございました。