NCESの活動領域

研究用情報基盤のクラウド化

武井 千春氏
武井 千春氏

名古屋大学 大学院情報科学研究科 附属組み込みシステム研究センター(NCES)では、SINETクラウドサービスを利用して研究用情報基盤のクラウド化を実施しました。
その狙いと成果について、名古屋大学 大学院情報科学研究科 附属組み込みシステム研究センター 研究員 広報・渉外担当 武井 千春氏と、同 研究員 高田 光隆氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2015年3月19日)

まず、NCESの概要と研究内容について教えて頂けますか。

武井氏:当センターは、産学連携を軸に組み込みシステム分野に特化した研究を行う施設として2006年に設立されました。産業界における技術課題を分析し、これを大学の基礎研究に反映させることで、大学の持つ技術シーズの実現/実用化やプロトタイプとなるソフトウェアの開発、組み込みシステム技術者の教育/人材育成などを進めるのが活動目的です。医療分野で言えば、ちょうど大学附属病院のような役割を当センターが担っているわけですね。
中京地区には大手自動車メーカーや自動車部品メーカーが数多く本社を構えていることもあり、現在は車載ソフトや次世代車載セキュリティ、車載データ統合アーキテクチャなど、自動車分野の研究プロジェクトがメインになっています。また、それ以外にJAXAとの共同研究なども行っています。
さらに人材教育についても、民間企業からの養成対象者受け入れや公開講座の開講を行っているほか、全国15大学が共同で実践的教育を行うプロジェクト「enPiT」の組み込みシステム分野を九州大学と一緒に担当しています。

今回、センターの情報基盤のクラウド化を実施されましたが、その背景について伺いたいのですが。

高田 光隆氏
高田 光隆氏

高田氏:当センターでは、共同研究を円滑に進めるために、Webサイトやグループウェア、認証用 ActiveDirectory、メールなどのサービスを独自に提供しています。しかし、以前はこれらのサービスを支える業務サーバ群を自前で構築・運用していたため、日々の運用管理や障害への対応などが重い負担となっていました。
システムを持つ以上誰かが管理を行わなくてはなりませんが、当センターには専門の技術職員が居るわけではありません。そこで、ネットワークやサーバに関する知識を持つ研究員がボランティアベースで作業にあたっていたのです。とはいえ、そもそも研究員の本分はあくまでも研究ですので、あまりこうしたことに時間を取られるのは望ましい状況とは言えません。

武井氏:それと、もう一つ大きかったのがコストの問題です。物理サーバをセンター内に置いて24時間体制で動かすとなると、冷却のための空調費用も馬鹿になりません。また、東南海地震など大規模自然災害への備えについても考える必要がありましたので、業務サーバ群のクラウド化によってこれらの問題を解消しようと考えたのです。

クラウド化にあたって課題となった点などはありましたか。

武井氏:当センターでは様々な先端研究を行っていますので、学外のパブリッククラウドなどにそのままシステムを置くのはセキュリティ/機密保護の面で難しい。また、当センターは名古屋大学の研究施設として情報発信などを行っていますので、学外のサービスを利用することで、大学のドメイン名が使えなくなってしまうのも困ります。
さらに、もう一つの不安要素として、事業者のサービス方針が当センターのICT活用ポリシーと合わなくなった場合にどうするかという問題がありました。事業者からは「アプリケーションも含めて全部サービス利用の形態にすればどうか」という提案ももらいましたが、もしかすると将来またセンター内にシステムを戻すという判断があるかもしれません。そうした時に簡単に戻せるのかと聞くと、そんな事態は想定していないと言われてしまうわけです。こうした点がネックになり、単純な商用クラウド利用は難しいかなという印象でした。

そこでSINETクラウドサービスを導入されたわけですね。

武井氏:そういうことです。ちょうどSINETの説明会に出席した時に、SINETクラウドサービスについての紹介がありました。これなら、クラウド側にサーバを持って行ったとしても、論理的にはセンター内に置いていた時と同様の運用が実現できます。Webサイトやメールのドメイン名も変わりませんし、ネットワークについても学内LANの延長として考えれば良い。
ユーザー環境から見れば今までと何も変わらない上に、懸案であったサーバ/ネットワークの運用管理負担からも解放されます。まさに当センターにとっては渡りに船のサービスだったため、早速SINETクラウドサービスの採用を決定しました。
現在はNTTコミュニケーションズのサービス上で各種業務サーバを稼働させ、当センター内のスイッチ経由でSINETを経てアクセスする構成にしています。

導入効果についてはいかがでしょうか。

高田氏:ユーザー管理などの通常業務は変わりませんが、システムの障害対応などは格段に減少しましたね。以前は、建物の法定設備点検で年二回の停電がありましたが、これが終わってシステムを立ち上げる際にしばしばトラブルが発生し、その原因究明と復旧作業に半日近く費やすこともありました。もちろん、クラウド化を行った現在では、こうしたトラブルに悩まされることもなくなっています。
また、システム移行についても非常にスムーズでしたね。今回はクラウド側に新規にサーバを立ち上げてデータだけを移行していますが、作業期間的には2、3日くらいしか掛かっていません。ちなみに当センターでは、2015年5月に別の建物への引越を予定していますが、その際の対応も容易になることと見込んでいます。

武井氏:コスト削減の面でも非常に大きな効果がありました。以前は気温の上昇する夏場などにはサーバ室の空調機器がフルパワーで稼働していましたが、物理サーバがなくなったことでこれも止められるようになりました。この結果2014年度のデータでは、以前と比較して年間約100万円もの電気代が削減できています。

それは凄いですね。

武井氏:こうしたことが実現できたのも、SINETという共通の学術ネットワーク基盤があればこそです。我々のような大学の研究機関が、自前で商用クラウドにL2接続するというのは様々な面で非常にハードルが高かった。
その点、SINETを利用することで、望み通りのクラウド化が実現できましたし、大学の情報基盤センターも積極的に協力してくれました。この点には大いに感謝しています。

最後に今後の展望についても伺えますか。

高田氏:当センターでは、個々の教育研究プロジェクトに応じてサーバを立ち上げるケースもありますので、追加や削除が柔軟に行えるクラウドのメリットを最大限に活かしていきたいですね。
また、企業だけでなく他大学との共同研究などもありますので、こうしたところでもSINETのサービスを活用していければと思います。

ありがとうございました。