全国18連合農学研究科を結ぶ遠隔講義システム

東京農工大学 総合情報メディアセンターでは、全国18の国立大学にまたがる連合農学研究科を結ぶ遠隔講義システムを、2009年2月より運用開始する予定です。
このシステムの概要と狙いについて、お話を伺いました。

萩原 洋一氏
萩原 洋一氏

東京農工大学 総合情報メディアセンターでは、全国18の国立大学にまたがる連合農学研究科を結ぶ遠隔講義システムを、2009年2月より運用開始する予定です。
このシステムの概要と狙いについて、総合情報メディアセンターの萩原 洋一准教授と櫻田 武嗣助教にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2008年7月22日)

まず、東京農工大学における情報化の取り組みについて伺えますか。

萩原氏: 情報教育環境の整備という面では、小金井キャンパス、府中キャンパスにそれぞれ3教室ずつPC教室を設置。図書館にもPCを導入し、自習などに利用できるようにしています。学内で稼働する端末数は、全部で約400台に上ります。
また、本学では無線LANも比較的早くから導入しており、150台以上のアクセスポイントを学内に展開しています。緑の多いキャンパスですから、季候の良い時期には屋外のベンチなどでネットワークを利用する学生も多いですよ。
ちなみに、秩父や多摩丘陵、津久井湖などに「FM:Field Museum」と呼ばれるフィールド研究施設がありますが、ここでも無線LANを利用できます。統一認証基盤も構築していますので、小金井キャンパス、府中キャンパス、各FMのどこに居ても、同じID・パスワードでシステムやネットワークを利用できます。

まさにユビキタスなICT環境を実現されていますね。

櫻田 武嗣氏
櫻田 武嗣氏

櫻田氏: 本学の場合は、もともと授業やサークル活動などで、学生が小金井・府中キャンパス間を移動する機会が多いため、どこにいてもシームレスにネットワークが利用できる環境づくりが重要だったのです。
また、環境への取り組みを重視している点も、本学の大きな特徴の一つです。たとえば、環境問題を取り扱う学生サークルからのペーパーレス化推進提案を受け、従来型のコピー機に代えてデジタル複合機を導入しました。
ムダな印刷やコピーを行わないよう心がけるのはもちろんですが、デジタル複合機のスキャナ機能を無償で提供し、原稿をPDF化してUSBメモリに取り込めるようにしています。これにより、新聞や資料などをスクラップする際にも、紙ではなく電子データで残せるようになりました。

IT面でもエコを重視されているとは、さすがに農学・工学の両分野を扱う大学ですね。
さて今回、全国の連合農学研究科(以下、農学連合)を結ぶ遠隔講義システムの構築プロジェクトを立ち上げられたと伺いました。
その背景についてお聞かせ頂けますか。

萩原氏: 農学連合を構成する全国18大学では、各大学の持ち回りで遠隔講義を実施しています。これは6月と11月の年2回、2日間にわたって、その時々のトピックスをセミナー形式で講義するというものです。
遠隔講義のインフラには、独立行政法人 メディア教育開発センターが運営する、通信衛星を利用したネットワークサービス「SCS」を利用してきました。ところが、SCSは運用開始から12年が経過しているため、いろいろな問題点が出てきました。
たとえば、地上局の保守に高額な費用が掛かる上、部品の入手も難しくなっています。中には地上局が故障したため、遠隔講義に参加できないという大学も出てきました。農業改革の重要性が一段と高まる中、インフラの問題で農学連合の活動に支障が出るのは、決して望ましいことではありません。
そこで当センターでは、こうした課題を解消すべく、ネットワークを使った映像配信や質疑応答の実験を実施しました。その結果、十分実用に耐えることが分かりましたので、今回のプロジェクトを立ち上げたのです。その後、SCSの運用停止が発表されたため、各大学からも大きな期待を集めることになりました。

新システムを構築するにあたっては、どのような点を狙いとされましたか。

櫻田氏: まず1点目は、「5年先でも使えるシステム」ということです。単純に映像を流すだけならいろんな製品がありますが、講義に使うものである以上、短期間で陳腐化しては困ります。
そこで今回のシステムでは、HD品質での映像配信をサポートしました。最近では、様々なテレビ会議システムや映像配信ソリューションが導入・活用されていますが、HD品質の映像配信を全国レベルで行うケースは、まだ珍しいのではないでしょうか。
また、もう1点重視したのが、「使い勝手の優れたシステム」ということです。たとえば、テレビ会議システムの中には、リモコンの操作が複雑で、ある程度レクチャーを受けないと使えないようなものもあります。また、SCSでも、何日か前にあらかじめ予約しておかないと利用できないなどの問題がありました。
新システムではこうした課題を解消し、「ITに詳しくない方でも直感的に利用できる」「使いたい時間の直前でも予約できる」「予約しておけば、自動的にシステムが立ち上がってすぐに使える状態になっている」などの点を実現したいと考えました。

なるほど。それならかなり便利に使えそうですね。

萩原氏: 使い勝手に関してはかなり気を遣いましたね。たとえば、今回のシステムではタッチパネルを採用しているのですが、講義の時間が延びそうな時は「延長」ボタンにタッチするだけで時間延長が行えます。
遠隔講義では、指定時間が来ると、たとえ講義の途中であっても接続が切られてしまう場合がありますが、今回のシステムではそうした心配はありません。
また、衛星地上局のように大がかりな設備装置を必要としませんので、システムの消費電力も以前の数十分の一~数百分の一程度。環境負荷軽減という面でも、大きな効果が見込めます。

今回のプロジェクトではネットワークにSINET3を採用されましたが、その理由はどこにあったのですか。

櫻田氏: 基本的には、農学連合の18大学を結ぶことが今回のプロジェクトの目的ですが、我々としてはさらにその先も見据えています。
たとえば各大学が、それぞれの姉妹校や地域の他の大学などと一緒に、システムを使いたいケースも出てくることでしょう。あまりオープンでないネットワークサービスを採用してしまうと、そうした時に新たに参加する大学のハードルが高くなってしまいます。
その点、SINET3であれば、全国の国立大学法人に広く利用されている上、NIIのサポートも受けられます。
また、HD品質の映像を流すことから、ネットワークの高速性や安定性が非常に重要になりますが、SINET3ならこうした面でも安心できます。そこで、今回のシステムのネットワークについては、SINET3を採用するのがベストだと考えました。

運用開始は2009年2月の予定とのことですが、今後に向けた意気込みを伺えますか。

萩原氏: 将来的には、海外の大学や研究機関との講義や会議などにも活用されるようにしていきたい。特に農業分野では、東南アジアや南米、アフリカとの連携が重要なカギになりますので、これらの地域とも交流を深める上で貢献できればと思います。

櫻田氏: 国内の他の大学からも、自校で導入している遠隔拠点向け映像配信システムと相互接続しないかというお話を頂いています。本番運用開始後はこうした取り組みも前向きに進め、もっとネットワークを広げていきたいと思います。

ありがとうございました。