全学情報基盤の全面クラウド化

東京農工大学 総合情報メディアセンターでは、SINETのクラウド接続サービスを活用して、全学情報基盤の全面クラウド化を実現しています。その狙いと成果についてお話を伺いました。

持たないシステム

持たないシステム

国立大学法人 東京農工大学 総合情報メディアセンターでは、SINETのクラウド接続サービスを活用して、全学情報基盤の全面クラウド化を実現しています。その狙いと成果について、同大学 総合情報メディアセンター 教授 萩原 洋一氏と同 講師 櫻田 武嗣氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2017年2月6日)

東京農工大の全学情報基盤については、2011年の更新の際に一度取材させて頂きました。当時は学内のサーバ群をデータセンタに移設すると同時に、SINETのL2VPNサービスを利用して商用クラウドメールとの接続を行われたわけですが、今回の更新ではどのような点に取り組まれたのでしょうか。

萩原 洋一氏
萩原 洋一氏

萩原氏: 前回のクラウドメール活用もそうですが、元々本学では先進的な情報インフラの実現に力を注いできた経緯があります。学生が社会に巣立った時に、これまで大学で利用していた環境が時代遅れになっていたのでは意味がない。そこで、ある程度将来を見据えた上で、数年位では先進性が損なわれない環境を目指してきたのです。
そうした中、今回の大きなテーマとなったのが、従来のPC教室のあり方でした。現在ではほとんどの学生がPCやスマートフォン、タブレットなどの情報端末を所有しており、わざわざ学内の端末を利用する必要性も薄れています。それならば大量のPCを専用の教室に並べるよりも、自己所有のデバイスをもっと柔軟に活用できるようにした方が良い。そこで今回から、BYOD(Bring your own device)の全面的な導入に踏み切ることにしました。

BYOD化によるメリットとしては、どのような点を期待されたのですか。

萩原氏: まず一点目は、いつでも・どこでも自分の端末で自由に情報活用やレポート作成などが行えるということです。また、自分自身の端末を用いることで、情報セキュリティに対する意識も高められます。さらにその他にも、大学院に進んだ際に研究室側で学生用のPCを用意する必要がない、農場などでのフィールドワークでも自分自身の端末で研究ができるなど、様々なメリットが考えられます。

新たな環境を構築するにあたり、重視された点などはありますか。

櫻田 武嗣氏
櫻田 武嗣氏

櫻田氏: 今回の更新のポイントとしては、「学生や教職員が誰でも簡単に使える仕組みを実現すること」「学内にサーバなどのモノを持たないこと」の2点が挙げられます。特に前者については、利用者にとっての簡単さだけでなく、システム運用が容易であることも重視しました。本学ではこれまでも様々な先進的な取り組みを行ってきましたが、管理者側が運用でカバーしなくてはならないことも多かった。それなら最初から、運用も含めて簡単に使える仕組みを考えるべきです。また、冒頭の話にもある通り、5年先でも十分先進的であるような環境を目指しました。

新電子計算機システム"edu@2016"
新電子計算機システム”edu@2016″

「モノを持たない」という点については、どのような狙いがあったのでしょう。

櫻田氏: オンプレミスで学内に環境を構築してしまうと、保守作業時の対応などに煩わされることが多いのです。保守作業を行う際には我々も立ち会う必要がありますし、業者側でも時間を合わせなくてはなりません。また、たとえデータセンタに設置したとしても、保守業者が入る際には借主の立会いが必要なので、結局同じことです。
そこで今回の更新では、システム調達の方法から抜本的に見直しました。具体的には、我々が自前でシステムを保有するのではなく、サービスとして提供を受ける形に変えています。これならハードウェア資産は事業者の持ち物ですから、先方の都合の良い時間に自由に保守を行ってもらうことができます。現在、新電子計算機システム「edu@2016」のサーバ群は、北海道の電力系通信事業者に設置されていますが、その保守・運用はすべて先方が担当しています。

持たないシステム
持たないシステム

全学情報基盤用サーバ群の機能をすべてサービス化するというのは、かなり先駆的な取り組みですね。その他には、どのような工夫を凝らされていますか。

櫻田氏: 今回はPC教室の全面廃止をトップダウンで決めましたので、それに代わるものとして新たに「仮想端末室」と呼ばれる仕組みを構築しました。大学でBYODを実施する場合には、学生が所有するPCの違いがしばしば問題になります。機器のスペックやソフトウェアのバージョンが異なるために、授業が円滑に進まないというケースが多いですね。
そこで今回の仮想端末室ではVDI方式を採用し、機種に関わらず同じ環境を利用できるようにしています。それもVDI専用クライアントではなく、通常のHTML5対応ブラウザでアクセスできるようにしましたので、別途ライセンス費用が掛かるようなこともありません。また、こうした仕組みを実現する上では、無線LANがどこでもつながる必要がありますから、大量の端末を教室に持ち込んで綿密なサイトサーベイを実施。その他に「Google G Suite」や「Microsoft Office365」などのクラウドサービスも利用できるようにしています。

仮想端末室
仮想端末室

実際に仮想端末室を利用する場合は、どのような流れになるのですか。

櫻田氏: 今回は450台分のVDI環境を用意していますが、もし講義の際に台数が足りなくなると困ってしまいます。そこで仮想端末室を利用する際には、あらかじめ教員に予約システムで必要な台数を確保してもらっています。その後、学生が予約システムにWebブラウザでログインすると、自分の履修科目がメニューの先頭に表示されますので、それを選んでもらうことで仮想端末室に接続をします。そうするとブラウザの中に表示されたWindowsを使うことができます。PCが故障してしまってもブラウザだけで良いので代替機でもすぐに使う事ができます。また、経済的な理由でPCを用意できないといった場合などに備えて、貸出端末も少し用意しました。

サーバ群は北海道で動いているとのことですが、レスポンスなどは大丈夫なのですか。

櫻田氏: 本学と北海道との接続には、SINETのクラウド接続サービスを利用していますが、全く問題なく講義が行えていますね。遅延も百数十msec程度ですので、自分が今使っているデスクトップがまさか北海道で動いているとは、学生も気付いていないと思いますよ(笑)。ちなみに本学-SINET間は10Gbps、北海道-SINET間は10Gbps+予備10Gbpsの帯域を確保していますが、VDIはそれほど大きなトラフィックも発生しないのでまだまだ余裕です。

最後に今後の展望について伺えますか。

萩原氏: 今回の更新でハードウェア資産を相当減らすことができました。しかし事務系のシステムなどがまだ一部残っていますので、今後はこれらの環境もサービス化して、CO2/電力消費量のさらなる削減を図っていきたい。そのことが、本学のブランドステートメントである「地球をまわそう。MORE SCENCE!農工大」にもつながってくると考えています。インフラを下支えするSINETにも、引き続き安定的なサービス提供を期待したいですね。

ありがとうございました。

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