多地点制御遠隔講義システム 設置場所

全国18連合農学研究科を結ぶ多地点制御遠隔講義システム

萩原 洋一氏
萩原 洋一氏

国立大学法人 東京農工大学 総合情報メディアセンターでは、全国18の国立大学にまたがる連合農学研究科を結ぶ遠隔講義システムを構築。2016年2月より、第2期システムの運用を開始しています。その概要と成果について、同大学 総合情報メディアセンター 教授 萩原 洋一氏と同 講師 櫻田 武嗣氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2017年2月6日)

本遠隔講義システムについては運用開始前に一度取材させて頂いたほか、2011年の記事でも少し触れていますが、改めてこれまでの経緯と成果について振り返って頂けますでしょうか。

萩原氏: わかりました。連合農学研究科(以下、農学連合)を構成する全国18大学では、かつて通信衛星を利用した遠隔講義を6月・11月の年2回の持ち廻りで実施していました。このシステムが老朽化したことから、SINETを用いたHD対応の遠隔講義システムを2009年に新たに構築。これが前回記事化された第1期システムですね。
それ以来、大変活発に利用されるようになっており、6月・11月の集中講義だけでなく、毎週2~3コマの遠隔講義が各大学間で行われています。また、その他にも、会議や修士/博士論文の指導、面接など、幅広い用途に用いられており、年間3000時間近い稼働時間を達成。最近では連合農学に加えて、本学と岩手大学が共同で設置した共同獣医学科や、連合獣医学研究科などでも活用されています。利便性と使いやすさに徹底的にこだわったことが、システムの利用が定着した大きな要因だと考えています。

さらに今回、第2期システムとなる新遠隔講義システムの運用を開始されました。その狙いについて伺えますか。

櫻田 武嗣氏
櫻田 武嗣氏

櫻田氏: まず従来システムの課題の一つに、プレゼンテーション資料などのコンテンツ映像が画面上で見にくいという点がありました。こちらはフレームレートが秒間5コマだったため、動画映像などの動きのあるコンテンツがスムーズに再生できなかったのです。主映像と副映像を切り替える仕組みなども用意してはいましたが、操作が面倒であまり利用されませんでした。
また、もう一つの課題は、PCやスマートフォン(スマホ)、タブレットといったモバイル端末への対応です。従来型のTV会議システムだと、こうしたデバイスでの利用には、別途ライセンスが必要になってしまう点が大きなネックになっていました。しかし、遠隔講義システムの利用が広がる中で、海外留学生の面接に使いたい、教室内での講義だけでなく農場などでのフィールドワークでも使いたいといった具合に、モバイル利用に対するユーザーニーズもどんどん広がっています。そこで今回の更新では、これらの課題を解消して、さらなる利便性向上を図ることを目指しました。

具体的にはどのような改善を加えられたのですか。

櫻田氏: 前者については、フレームレートの向上を図ると同時に、HDからフルHD対応へと映像品質を高めました。これにより、細かい文字や動きのあるコンテンツなども以前より見やすくなっています。講義では資料にアンダーラインを引いたり、カーソルで特定の場所をポイントしたりする場合もありますので、こうしたものが画面上でもきちんと見えるというのは非常に重要です。また、遠隔講義では、遠隔側の学生からの質問なども活発に行われますので、音声のクリアさも重視しましたね。
あと後者については、モバイルデバイス対応の新たなシステムを導入。学生がPCやスマホを利用して講義に参加できるのはもちろんのこと、先生が出張先などから講義を行うこともできるようになりました。これも特殊な撮影機材などは一切不要で、手持ちのスマホやノートPC内蔵のWebカメラ等で映像配信が行えます。もし音声が入りにくい場合には、部屋の電話などを併用することもできます。また、この仕組みを利用する際の操作についても、予約システムのチェックボックスを入れるだけですから、ITにあまり詳しくない先生でも手軽に使えます。

外からスマホで講義まで行えてしまうというのは凄いですね。そのほかにシステム的な変更点などはありますか。

萩原氏: 従来は遠隔講義用の管理サーバ群を本学の学内に置いていましたが、電源や空調、BCPなどの問題があったため、今回から大学間協力協定によるBCP対応設備「多摩ICT拠点」にシステム一式を移設しています。これにより、万一本学が大規模自然災害などの被害を受けた際にも、遠隔講義を継続して実施できるようになりました。ちなみに、この設備は電気通信大学内に設置されていますが、先方の環境と本遠隔講義システムとはセグメントを分ける形で運用しています。近年では大学間連携の重要性も一段と高まっていますので、そのモデルケースの一つとも言えるのではないでしょうか。

各大学間を結ぶネットワークについては、引き続きSINETを利用されています。その利点についてはいかがでしょうか。

櫻田氏: こうした大学間をまたぐ取り組みを行う上で、SINETのような学術ネットワークの存在は大きいですね。企業などの場合だと、ネットワークの端から端まで自分で考えなくてはなりません。その点、SINETがあれば、それぞれの大学はデータセンタまでの接続さえ頑張れば良く、その間の通信については意識せずに済みますから。
萩原氏: 電気・水道・水などのライフラインと同じようにネットワークが活用できるのは、我々にとっても非常に素晴らしいことと感じています。インフラに関しては、使いたい時にいつでも使えるということが一番大事ですから、今後も安定的なサービス提供を望みたいですね。

最後に今後の展望についてもお伺いしたいのですが。

櫻田氏: 現在は遠隔講義等でのリアルタイム利用がメインですが、システムには講義収録の機能も備わっていますので、今後はそうした用途でも使っていければと考えています。ネットワーク障害などで遠隔講義が中断されてしまった場合の対応には既に使っていますが、今後、これについては著作権的な問題をクリアする必要もあるのですが、講義の録画映像を後から観られるようになれば、e-Learning的な使い方も考えられます。
また、せっかく構築したシステムを我々だけで利用するのももったいないので、同様の取り組みを行っている他大学ともお互いに協力して、相互乗り入れをさらに進めていければと考えています。信州大学や慶應義塾大学などのシステムとの接続実績はあるのですが、システムも新しくなったことですし、さらにいろいろな大学との連携に活用できればと思います。

ありがとうございました。

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