同室感コミュニケーションシステム「t-Room」の研究

同志社大学 理工学部 共創情報学研究室では、NTTコミュニケーション科学基礎研究所と協同で同室感コミュニケーションシステム「t-Room」の研究 を行っています。
その概要とSINETの役割について、お話を伺いました。

片桐 滋氏
片桐 滋氏

同志社大学 理工学部 共創情報学研究室では、NTTコミュニケーション科学基礎研究所と協同で同室感コミュニケーションシステム「t-Room」の研究 を行っています。
その概要とSINETの役割について、同志社大学 理工学部 情報システムデザイン学科教授 片桐 滋氏と、日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 主幹研究員 高田 敏弘氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2010年10月22日)

片桐先生の研究室は「共創情報学」と名付けられていますが、ここにはどういう意味が込められているのですか。

片桐氏: もともと当研究室は、2004年の情報システムデザイン学科開設と同時に立ち上がったわけですが、その時にどのような研究室名にするかいろいろと考えました。そこで思ったのが、コミュニケーションの次にやってくるものはコラボレーションであろうということです。
情報学というものは、人の生活に直接関わる学問体系です。自動車が人間の動作を拡張するように、コンピュータやネットワークは人間の脳の働きを拡張してくれます。それが人と人とをつなげばコミュニケーションになりますし、もう一歩進んで共同作業ができるようになればコラボレーションにつながります。 今後の情報学のあるべき姿を考えれば、我々はこのコラボレーション、つまり「共創」をテーマとして掲げるのが良いだろうと思ったのです。
私自身は、パターン認識の理論などを研究テーマとしていますが、今回の取材の主題である「t-Room」の技術開発に活かせる部分も多いので非常に面白いですね。また、研究室では、その他にデータマイニングに関する研究なども行っています。

いまお話が出たt-Roomですが、これはどのようなものなのでしょうか。

高田 敏弘氏
高田 敏弘氏

高田氏: t-Roomは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所(以下、CS研)が10年以上にわたって研究を続けているコミュニケーションシステムです。そのキーワードは、我々の造語である「同室感」、つまり離れた人同士があたかも同じ部屋の中にいるような感覚を実現するところにあります。
一般に、離れた人同士が映像コミュニケーションを取る手段としては、テレビ会議システムなどが広く知られています。しかし、テレビ会議はディスプレイという「窓」の向こうに相手が居るわけで、あちら側/こちら側というコミュニケーションの壁を取り去るには至りません。 そこでt-Roomでは、離れた場所に存在する同じ部屋同士を重ね合わせることで、より一体感のあるコミュニケーション/コラボレーションの実現を目指しました。

具体的にはどのような構成になっているのですか。

高田氏: 現在のt-Roomは、壁面に複数のディスプレイを配置した多角形の空間として構成されています。ディスプレイの上側には正面にいる人を写すビデオカメラが設置されており、参加者が壁を背にして立つと、その映像が他の場所にあるt-Roomのディスプレイに映し出されます。参加者が隣の壁に動けば、映像も同じように隣のディスプレイに移りますし、参加者が特定の方向を指させば、全員がその方向を見ることになります。 つまり、t-Room内にいる全員が、同じ空間認識を持つわけですね。これにより、ちょうど一つの部屋の中に人が集まったような、リアルな同室感が再現できるのです。
また、t-Roomが越えるのは空間の壁だけではありません。t-Roomは映像を記録する機能も備えていますので、過去に行われた作業とコラボレーションすることもできます。 たとえば、自分が参加できなかった会議の映像を再生すれば、あたかもその場にいたかのような雰囲気を体感できます。さらに、会議映像を再生しながら発言をすればその様子も記録されるため、まるでその会議に参加して発言したかのような空間をそこに作ることができます。このように、 t-Roomを利用することで、時間の壁をも越えることができるのです。

その研究インフラとしてSINETが活用されているわけですね。

片桐氏: その通りです。t-Roomは同志社大・京田辺キャンパスの当研究室と、CS研の京阪奈、厚木の3ヶ所に設置されていますが、同志社大ノードとCS研・厚木を結ぶインフラとして、SINET3のL1オンデマンドサービスを利用しています。 我々の研究においては、ネットワークの伝送品質が重要な意味を持ちます。
たとえば、我々が行っている実験の一つに、「遠隔合奏」があります。これは離れた場所にいる人同士が楽器を持って同時に演奏するというものですが、遅延の問題が大きく影響するんですね。 そこで、その影響を分析するために、遅延制御を行ったりしているのですが、ネットワーク自体に「ゆれ」が多いようだと、制御の効果を正しく評価できません。その点、SINET3のL1オンデマンドサービスを利用すれば、こうしたことに悩まされる心配はありません。

高田氏: 他の大学や加入機関との連携が容易に行えるのも、SINETの大きなメリットと言えるでしょう。 たとえば、2010年3月に東大で行われた情報処理学会の記念大会でt-Roomを展示したのですが、この時も東大ノードとNIIの一ツ橋ノードをL1オンデマンドサービスで結ぶだけでデモが行えました。 こうしたフレキシブルさは、学術系ネットワークならではのものですね。

CS研にとって、大学の研究室と一緒に研究する意義はどういう点にありますか。

高田氏: 既成概念にとらわれない、若者ならではの発想でしょうか。我々のようなプロの研究者が手を出しにくいテーマにも、学生さん達は果敢に挑戦してくれます。 たとえば先の例に出た遠隔合奏なども、既に昔からいろいろな研究が行われていて、現実には難しいと考える研究者も多いのです。 でも、その研究成果を学会で発表した学生が、32件中2件しか与えられなかった発表賞を受賞したこともありました。こうした前向きな姿勢から、刺激やヒントを貰うことも多いですね。

共創情報学研究室としても、t-Roomを研究の題材として利用できるメリットは大きそうですね。

片桐氏: そうですね。このシステムには、映像/音声やコンピュータ、ネットワーク、ヒューマンインターフェイスなど、幅広い分野のテクノロジーが利用されていますから、学生の関心に応じていろいろな研究ができます。 こういうものに触れた経験は、社会に出てからもきっと役立つことでしょう。ちなみに、本キャンパスでは、毎年2月に卒業研究の配属希望を決めるためのオープンラボを開催しているのですが、そこでも学生にとってのt-Roomのインパクトは非常に大きいようです。

t-Roomの進化は今後も続いていきそうですね。

高田氏: NTTとしては将来の実用化、商用化を探るという面もあるのですが、t-Roomそのものの可能性を追求する取り組みも推進していきたい。 たとえば先に触れた過去映像とのコラボレーションなどでも、いろいろな活用が考えられると思います。t-Roomは今までにないコミュニケーションシステムなので、まだまだチャレンジすべきことは多いと思っています。

片桐氏: 研究室としても、この春に第一期の修士を送り出すなど、ようやく基盤が整ってきました。今後も、大学ならではの研究をいろいろと展開していきたいですね。
ただし、こうした研究を続けていく上では、SINETのようなネットワークの存在が必要不可欠です。既にネットワークは電気や水道と同じレベルで考えるべきもので、どこの大学や研究機関でも使えて当然です。 日本が高度情報化社会のリーディングカントリーであり続けるためにも、SINETの発展には大いに期待しています。

ありがとうございました。