全国地震観測データ流通ネットワーク「JDXnet」の構築・運用

東京大学 地震研究所では、全国の国立大学や気象庁、防災科研、海洋研究開発機構などと共同で、全国地震観測データ流通ネットワーク「JDXnet」の構築・運用を行っています。
このネットワークが持つ意義とSINETの役割について、お話を伺いました。

鷹野 澄氏
鷹野 澄氏
東京大学 地震研究所では、全国の国立大学や気象庁、防災科研、海洋研究開発機構などと共同で、全国地震観測データ流通ネットワーク「JDXnet」の構築・運用を行っています。
このネットワークが持つ意義とSINETの役割について、東京大学 地震研究所 地震予知情報センター教授 鷹野 澄氏と、同助教 鶴岡 弘氏にお話を伺いました。
※現在は、東京大学情報学環総合防災情報研究センター教授で地震研究所教授を兼務
(インタビュー実施:2008年12月4日)

まず、東京大学 地震研究所の概要について教えて頂けますか。

鷹野氏: 当研究所では、地震や火山現象の科学的解明と、これらの現象が引き起こす災害の軽減を目指して、総合的な研究・教育を進めています。
現在は4部門・5センターと、研究所の活動を支援する室・部で構成されており、我々が所属する地震予知情報センターは、全国の大学の地震予知研究情報ネットワークの全国センターとしての任を負っています。
具体的には、「地震観測データ等の収集・提供」「データ流通網や全国共同利用計算機の整備・運用」「IT技術を活用した地震防災情報システムの研究」などの活動を行っています。

地震観測データ流通については、かなり以前から取り組みを行われているそうですが。

鷹野氏: そうですね。少し歴史的なお話をすると、昔は全国の各大学や気象庁、防災科研などの機関が、それぞれに観測ネットワークを展開していました。これらの観測点のデータをお互いに共有しようということで、90年代初頭から取り組みを開始しています。
現在のようなネットワークインフラが無かった時代には、9600bpsの専用線を引いて近隣の大学同士でデータ交換を行ったりしていました。
1993年からTCP/IP方式を用い、64Kbps専用回線やSINETを利用したデータ交換に変更し、1997年からは、9大学共同で衛星を利用したテレメタリングシステムの運用を開始。これにより、全国的なデータ共有や共同研究に弾みが付きました。

その後、現在のJDXnetが構築されたわけですね。

鷹野氏: はい。衛星を使ったシステムも導入から10年が経過し、老朽化などの問題が目に付くようになってきました。その一方で、地上のネットワーク環境が飛躍的に良くなってきたため、何かもっといい方法はないかと検討していたのです。
ちょうどそんな時に、JGN2のテストベッドが利用できることを知り、地震観測データ流通のための広域L2網の構築に着手しました。

L2-VPNを採用されたのには、何か理由があったのですか。

鷹野氏: 我々の研究では、数多くの大学や機関との間でデータ交換を行います。これをいちいち1:1でつないでいたのでは、設定が複雑になる上に運用も大変です。
そこで目を付けたのが、L2のブロードキャストを利用する方法でした。各大学・機関がそれぞれの観測データを広域L2網にブロードキャストすれば、自然にすべてのデータを交換することができます。もしダメだった場合は、L3のマルチキャストを利用しようかと考えていたのですが、幸い実験の結果うまくいったので、この形で運用を開始しました。

ネットワークに対する要件としては、どのような点が挙げられますか。

鶴岡 弘氏
鶴岡 弘氏

鶴岡氏: このネットワークは全国の地震研究のインフラですし、24時間・365日観測データが流れ続けています。それだけに、「止まらないネットワーク」であることが、非常に重要なポイントです。もしデータが取れなかったりしたら、後から解析を行うこともできませんしね。
ちなみに、各拠点に設置する地震データ集配信サーバなどの機器については、まず我々のところで十分なテストを行ってから導入しています。

JDXnetを流れる観測データは、どのような形で活用されているのですか。

鷹野氏: 現在JDXnetでは、全国約1,300カ所に上る観測点の地震データが流通しており、各大学・機関では、これらのデータをリアルタイムで研究に活用することができます。
また、「リアルタイムである必要はないが、後から解析を行いたい」といったニーズに備えて、各地域の地震データをアーカイブした研究者向けWebサイトも、全国9大学で公開しています。たとえば、岩手・宮城内陸地震のデータを解析したいと思ったら、東北大学のWebサイトへ行けばデータを入手し研究することができます。
さらに一般向けには、防災科研のHi-netのWebサイトでも利用可能ですし、気象庁では、地震の震源・マグニチュードを決定する際に、JDXnetのすべての機関の地震データを使用しています。このように、様々な形での活用が行われています。

鶴岡氏: たとえば、私の場合は、JDXnetを利用して、地震のメカニズムをリアルタイムで決定する研究を行っています。
地震が発生するメカニズムには、逆断層型や正断層型や横ずれ型など、いくつかの種類がありますが、これらのどの種類で発生した地震なのかを、素早く決定する研究をしているわけです。
もちろん、オフラインのデータを使ってもメカニズムは決定できますが、その都度必要なデータを自分で探したり、集めたりしなくてはならず、時間がかかってしまいます。その点、観測データをリアルタイムに得られれば、迅速かつ効率的にメカニズムを決定できるというわけです。
JDXnetのような仕組みがあることで、研究者の意識やモチベーションも高まると思います。

SINET3のL2-VPNサービスも新たに導入されましたね。

鷹野氏: 先にも話があった通り、このネットワークには非常に高い信頼性が要求されます。SINET3の基幹ネットワーク図を見ると高い信頼性が期待できたので、SINET3のL2-VPNサービスを利用してJDXnetのデータ交換網を構築したいと思いました。
またJGN2も利用して、通信経路の二重化を図ることにしました。これにより、もし片方に何らかの回線障害が発生したとしても、データを止めることなく流し続けられるようになりました。
また、SINET3のメリットとして、ネットワークのカバーエリアが広いという点が挙げられます。
基本的にデータ交換はブロードキャストで行っていますが、中には広域L2網に直接参加できない大学もあります。そうした場合は、拠点となる大学とフレッツ網でつないで、データを中継してもらっているんですね。その点、SINET3は全国の大学をカバーしていますので、今までよりも多くの大学が直接広域L2網に参加することができます。
さらに、「自前では観測点は持っていないが、観測データをリアルタイムで活用したい」という大学に対しても、SINET3経由でデータを提供することができます。日本の地震研究を活性化していく上で、こうした環境が実現できた意義は非常に大きいと言えます。

今後の地震研究にも大いに役立ちそうですね。

鶴岡氏: 現在JDXnetには観測データのみを流していますが、将来的にはそれ以外の情報、たとえば地震データを加工したデータや、そこから得られた様々な情報なども流せるようにしていきたいですね。そうすれば、今とは違った形での情報活用が実現していくことと思います。

鷹野氏: 私は地震観測データ流通の仕組みを長年研究していますが、今回のような環境が実現したことで、また新たな可能性が拡がったと感じています。
もっとも、こうした仕組みをさらに発展させていくためには、データだけでなく「人」のネットワークも欠かせません。今後引き続き、研究者のネットワーク作りにも、力を注いでいきたいと思います。

ありがとうございました。