胎児心スクリーニング普及に向けたハイビジョン遠隔講座

神奈川県立こども医療センターでは、胎児心スクリーニングの普及を目的とした「アドバンス講座」に、SINET4を利用した遠隔講座を取り入れています。
その狙いと効果について、お話を伺いました。

川瀧 元良医師
川瀧 元良医師
神奈川県立こども医療センターでは、胎児心スクリーニングの普及を目的とした「アドバンス講座」に、SINET4を利用した遠隔講座を取り入れています。
その狙いと効果について、神奈川県立こども医療センター 周産期医療部 新生児科 川瀧 元良医師と、NTTアドバンステクノロジ(株) ネットワークソ リューション事業部 ネットワークアウトソーシングビジネスユニット主任 芦田 善崇氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施:2011年12月21日)

まず、神奈川県立こども医療センター 周産期医療部 新生児科が担っている役割についてお聞かせ頂けますか。

川瀧氏:分かりました。まず一つ目は、いわゆる未熟児、つまり身体の小さな赤ちゃんを育てることです。 神奈川県内では、出産時の体重が1000gに満たないお子さんが年間200〜250人も生まれています。こうした子どもたちが元気に育てるように治療を施すのが我々の役割です。
また、もう一つは、生まれた時から疾患を抱えている新生児の治療です。 胎児診断が発達したことで、多くの病気を出生前の段階で見つけられるようになりました。 しかし、病気というものはただ見つけただけではダメで、適切な治療につなげていかないと意味がありません。 とはいえ、新生児に対して総合的な診療を提供できる医療機関は限られますので、当院が県内における中核病院として地域の診療機関や大学病院から患者を受け入れているのです。 他の病院で急患が発生した場合にも、新生児科の医師と看護師がすぐに駆け付けられる体制を整えています。 手術などは各診療科の医師が行いますが、術前術後のマネジメントなども新生児科の仕事になります。

今回のテーマである「胎児心スクリーニング」についても教えて頂けますか。

川瀧氏:現在のように医療が発達する以前は、いわば生まれた時が病気の始まりでした。しかし、先にも触れた通り、現在では生まれる前の段階で病気を見つけることができます。 心臓病についても同様で、スクリーニングによって病気の早期発見・早期治療が実現できます。そこで、私自身も発起人の一人となって神奈川胎児エコー研究会を発足させ、胎児心スクリーニングの普及に努めているのです。
胎児心スクリーニングの特徴としては、いわゆる「名人芸」を必要としない点が挙げられます。 一定のスキルと手順さえ身に付ければ、誰にでもスクリーニングを行うことができます。医師だけでなく、看護師や医療技師にも行えるんですね。 実はこのことは非常に重要なポイントです。なぜなら、スクリーニングは、不特定多数の人たちの中から患者さんをすくい上げるような作業なので、できる人が多ければ多いほど望ましいのです。
神奈川県内で1年間に生まれる子どもの数は、約8万人にも上ります。専門の医師だけがスクリーニングを行っていたのでは、とてもこの数をカバーすることはできません。 しかし、看護師や医療技師がスクリーニングの技術を身に付ければ、病気の発見率をより高めることができます。事実、胎児心スクリーニングに力を入れている神奈川県では、治療を要する病気を胎児期に発見できた割合が60〜70%にも達します。 非常に効果が高いことが実証されているので、他の地域にも積極的に拡げていきたいと思っているのです。

先生方が主催されている「アドバンス講座」も、そうした活動の一貫として実施されているわけですね。

川瀧氏:その通りです。アドバンス講座では、各診療分野のエキスパートの先生方を講師にお招きして、胎児心エコーの講習会を行っています。 参加して下さった医師や医療関係者からの評判も良く、回を追う毎に規模も拡大しています。
3回目となる今年は、学術総合センターの一ツ橋記念講堂を会場に開催しましたが、定員500名の一ツ橋記念講堂がほぼ満員の盛況でした。

今回は一ツ橋記念講堂と金沢大学・三重大学・愛媛大学とを結んだ遠隔講座も実施されています。 これにはどのような狙いがあったのでしょう。

川瀧氏:アドバンス講座の内容は非常に充実していますので、できるだけ多くの方々に参加して頂きたい。しかし、現実問題として、毎日忙しい産科の先生方や看護師、技師さんたちが丸一日、二日と病院を空けるのは困難です。 また、遠方から来られる方々にとっては、移動のための時間や費用も大変です。そこで、身近な場所に居ながらにして参加できる遠隔講座に目を付けたのです。

一ツ橋と各大学を結ぶネットワークにはSINETが利用されていますね。

芦田 善崇氏
芦田 善崇氏

芦田氏:実は、第一回の時にも金沢大学の会場と結んだ遠隔講座を行ったのですが、使用したシステムが標準画質のテレビ会議システムだったため、思ったような効果が挙げられませんでした。 たとえば、胎児の心拍数は秒間約150回もありますが、金沢側では映像のクオリティが低くて動きがよく分からないような状況だったんですね。
そこで今回はその反省を踏まえ、弊社で取扱っているハイビジョン動画送受信システムを採用しました。 ただし、高精細動画の送受信には6Mbps程度の帯域を必要としますので、高い品質と信頼性を備えたネットワークも必要になります。しかも今回は接続先が全て国立大学ですから、これはもうSINETを使うしかないと判断しました。

SINETを利用した効果はいかがでしたか。

芦田氏:事前テストでも充分な手応えは得られていましたが、本番でも非常にスムーズに講義が行えましたね。丸二日間に及ぶ日程の中で、映像が途切れたり遅延したりするようなことは一度もありませんでした。SINETの品質・信頼性の高さを改めて認識した次第です。
遠隔側で参加された方々からの評判も非常に良く、「映像を見ることで症例がよく分かった」といったお褒めの言葉も頂いています。 ちなみに、今回は新たな試みとして、遠隔地の金沢大学側から発信する講座も設けています。これも全く問題なく一ツ橋記念講堂側で受講することができました。

胎児心スクリーニングの普及にも貢献できそうですね。

川瀧氏:そうですね。「胎児心スクリーニングに関わる地域と人材の格差を解消したい」というのが我々の大きな願いです。 そのための取り組みを全国レベルで拡げていくには、遠隔地の医療関係者とも効率的に連携できる情報インフラが必要不可欠です。今回の遠隔講座の成功は、まさにそうした道を拓くものとも言えるでしょう。 高精細な映像を利用した双方向コミュニケーションが行えるとなれば、他の医療分野でもいろいろな可能性が考えられると思います。

今後は接続先の拡大なども考えられているのですか。

川瀧氏:ええ。胎児心スクリーニングの普及に意欲的に取り組んで下さる方々には、今後も積極的に協力していきたいと思っています。 特に来年のアドバンス講座では、東北地方で被災された大学などと接続し、医療面での復旧・復興支援を行えればと考えています。そういう意味でも、SINETに掛ける期待は大きいですね。
実は、正直申し上げると、我々医療関係者の間ではSINETの知名度はあまり高くなかったのですが(笑)、実際に遠隔講座に適用してみて高品質な学術ネットワークが存在することのメリット強く感じました。ぜひ今後も発展していって欲しいですね。

ありがとうございました。